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「行くぞ」
「う、うん……」
正直なところ、腰に手を回す感じのアレになればいいのにと思ったところもあった。本当に少しだけだ。Aに限ってそんなことをしてくるはずもないのに。
否、でもこの間は自分から俺に抱きついて……はないが、抱きついてきたようなもんだあれは。
Aが俺の顔が見える位置にいなくてよかった。こんなことを考えているなんて、少なからず俺は今変な顔をしているだろう。
おかしな考えを振り切るようにペダルを踏み込んだ。
「わ、すごい……」
自転車は難なく進み、後ろのAは少し驚いたように声を上げた。
当たり前だ。これくらい、なんてことねぇ。
なるべく滑らかな道を選びながら自転車を漕いでいく。
「で、話ってなんだ。」
「……」
本題はここだ。尋ねると、俺の両肩を掴んでいるAの手に、ぎゅっと力が入った。そして、
「その……寂しいなって、思う。新山女子に行ったら、もうこういうこと、気軽に出来ないから……」
俺にだけ言いたいこと。それは弱音だったようだ。
Aは言いづらそうに言葉を途絶えさせながら続ける。
思い返せば、俺たちはいつもどちらかが弱気になれば、どちらかがその曲がった背中を叩いて前を向かせていた。
それは今に始まったことじゃない。小学生の頃から、俺たちはお互いを見て、お互いを奮い立たせていたんだ。
一与さんが死んだ後、ぽつりと1人になった気がした時も、何故か別チームのはずなのに、1人自主練に勤しむAの存在は、俺にとって支えみたいなものになっていたように思う。
「話す時間は少なくても、小学生の頃からずっと、ほとんど毎日影山くんとは顔を合わせてたでしょ?
この5日間、なんか、ふとした時に寂しくなっちゃって……お弁当、一緒に食べるのも、一緒に帰るのも、こんな風に会うことも、もうあんまり出来ないのかなって思ったら……」
ほんの少しだけ、行きたくないなって思っちゃった。消え入りそうな小さな声で、Aはぽつりと言った。
こつんと、背中に何かが当たる。多分Aの頭だと思った。
「なんて、……えへへ」
「……」
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時