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「お前、今どこにいる?」
「あはは、あの……ここにいる。」
電話越しと目の前から、同じ声が聞こえた。鍵を外すために屈んでいた目線を上げると、携帯を耳に当てたAが小さく手を振っている。
まさか俺が帰ってくるのをずっと待っていたのだろうか。と思ったが、体が冷えている様子はない。
走ってきたのだろうか。Aは12月なのにコートを腕に抱え、ジャージ姿だった。
「なんか、やるぞ!って気持ち収まらなくて……
動き足りないからランニングしてた。それで……そろそろかなって思って来てみちゃった。」
「動きすぎはよくねぇぞ。」
注意すると、Aは苦笑し、はい。と素直に返事をする。
自転車のスタンドを外し、自転車を押しながら俺はAに向き直った。
「送ってく。冷えるから、コート着とけ。」
家までは自転車で大体15分程だろうか。自転車の前カゴに無理やり突っ込んだリュックからタオルを取り出し、荷台に敷く。
意図を察したのだろう。Aは顔を青くして両手と頭をブンブンと振った。
「ダメだよ2人乗りは!わ、私デカいし重いし……合宿帰りの影山くんに運転させる訳にはいかない!」
じゃあ置いてくぞ。なんて脅しは、コイツには脅しにならねぇんだった。潔く、なんの嫌味もなく「どうぞ」と言われて終わるだろう。
押しに弱いAのことだから、このまま譲らなければきっとしぶしぶ動き出すはずだ。
「帰りながら話した方が早く帰れんだろ。」
「……」
「俺にとってもお前にとっても良いじゃねぇか。」
俺の言葉に何かを言い返そうと、Aが口を開いたり閉じたりする。でも、しばらくして諦めたようにもそもそとコートに袖を通し始めた。
それを確認して、俺も自転車に跨る。そのまま待っていると、そっとAの手が自転車にかかったのがわかった。
「あの……ほんとのほんとに重いよ。」
「あぁ。」
「ほ、ほんとに大丈夫……?」
「大丈夫だ。」
Aは自分でも言っている通り、背が高い分、あたりまえだが女子の中では体重も重いだろう。それは十分に理解している。念を押したくもなるのかもしれない。
でも、俺だって男だ。ここで絶対にかっこ悪いところなんか見せたくないし、大丈夫である自信があった。
ゆっくりとAが自転車の荷台に跨る。そして、両手が俺の肩をそっと掴んだ。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます!ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです!いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しおり | 作者ホームページ:http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時:2022年10月10日 21時