第58話：弱音 ページ1
第58話
ユース合宿最終日。たくさんの刺激を受けて帰路に着いた俺の携帯に着信が入った。
ディスプレイを見ると、相手はAだ。Aも確か
今日合宿を終えたはずだった。合宿場所は新山女子で、指導を担当するのも、新山女子の監督。その上で俺に連絡をしてきているんだろうが、何かあったのか。
不思議に思いながら通話ボタンを押した。
「もしもし」
「あ、影山くんお疲れ様。もう合宿は終わった？」
「あぁ、今宮城に戻ってきた。まだ駅だ。」
「そっか。……よかった。」
そう言うと、Aは口を噤んだ。受話器越しの沈黙。そこからは僅かな迷いを感じる。俺は、何も言わずに言葉の続きを待った。
その間に、電車がガタンゴトンと音を立てて通り過ぎる。その騒音は、Aにも聞こえているはずだ。
そして、騒音が消えた後、意を決したように、「あのね」と声が聞こえた。
「新山女子に編入してもいいって、今日、監督に言われた。色々確認いるけど、多分できる。学校の都合上、来年の……4月から、だけど。」
「……そうか」
5日。たった5日でコイツは、相手に自分の実力を知らしめたってことだ。痛いくらいに、強く。全国屈指の強豪校に。
そうじゃないと、スポーツ推薦の編入なんて、そうそうあることじゃない。
やっぱり、Aの実力は本物だった。そう思うと、熱い、嬉しい気持ちが溢れた。自然と携帯を持つ手に力が入る。
「ビビってんのか？」
「ビビってない。」
すぐに返ってきた電話越しの声は、凛としていた。自然と口角があがる。上がってこい。もっともっと上まで。お前ならそれが出来る。
「行くよ、私。新山女子。」
そう、静かに力強い声で、Aは言った。
夕方には東京を出て、宮城に着いた今はもう暗くなっていた。切符を通し、改札を出る。
ここからは自転車で移動をする。話も終わったから通話を切った方がいいかと思ったのだが、Aは何故か、それをしようとしない。
静かになった電話越しに、「でも……」と、さっきまでとは打って変わって、弱々しい声が聞こえて耳をすませた。
「他の人には、言わない、から……影山くんにだけ、ほんの少しだけ、言いたいことがある……」
「？、なんだ」
自転車置き場で自転車の鍵をはずし、肩と耳で携帯を挟みながら返事をする。
駅からある程度離れた事でわかったが、Aも外にいるようだった。そして俺と同じく、遠くの方から電車の音がする。否、ほぼ同じタイミングで、電車の音が聞こえていた。
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しおり(プロフ) - りんさん» ありがとうございます！ネタ考えます🤔 (2022年11月30日 8時) (
レス) id: 0e2f0640dd (このIDを非表示/違反報告)
りん - マジで面白いです！いつも楽しみの更新待ってます (2022年11月27日 20時) (レス) id: e34fa82e55 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：しおり | 作者ホームページ：http://nanos.jp/amakusa40/
作成日時：2022年10月10日 21時
