きょうと ページ19
しかし、恋人。恋人ねえ…。
ホーンを下がらせてからも、僕は一人考え続ける。
どうも気になる単語だ。吸血鬼にはまったくもって縁のない言葉。
なのに、心当たりがないのかと言われれば嘘になるわけで。
「いや、でもなあ」
さすがにないだろう、と思う。
吸血鬼になってからも心に引っかかり続けるしこり。
人間だった頃の記憶。悲しい別れをしてしまった、かつて好きだった人。
数百年前に一度会いに行こうとして、フェリドから「彼女はもう死んだ」と聞かされた。
何世紀も前の人間だ。生きているはずがない。
彼女は特殊な体を持っていたが、平等に寿命が訪れたのだろうと、すっかり未練は断ち切っていた。
はず、だったんだけど。
「…まあ、いいか」
フェリドの言うことはなにも信用できない。真面目に考えるだけ馬鹿を見てしまう。
僕はすぐにその事を忘れて、また書類を眺め始めた。
そして、退屈なまま時は過ぎ。
あっという間に二週間が経ってしまった。
「お待ちしておりました、クローリー様」
京都に着いて、真っ直ぐフェリドの屋敷へと向かう。
いつ来ても、ここはあまり変わらない。使用人に美少年と美少女を揃えているのも相変わらずだ。
「フェリド君は?」
「今は、執務室にいると思います」
それに頷いて、慣れた足取りでそちらに向かう。
廊下では、家畜の服を着た人間とたまにすれ違った。面白いくらい、顔が綺麗な子供ばかり。本当に変わらない。
執務室が近づくにつれ、吸血鬼特有の長い耳が話し声を拾った。
フェリドと、もう一人いるらしい。女の声。家畜だろうか?
もう目的の部屋はすぐそこだ。そろそろフェリドも僕の存在に気がついているはずだった。
二回ノックをして、声をかける。
「フェリド君。入るよ」
返事を待たずに扉を開けた。
思った通り、中ではフェリドがソファに横になっている女に跨っているところだった。食事中だったかもしれない。
こちらを向いている女の爪先が、ぴくんと揺れた。突然の来訪者に驚いたようだった。顔は見えない。
フェリドが、ゆっくりとこちらを振り向く。顔が笑っていた。にやにやと、本当に楽しそうに。
98人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リリア - 最高です!!!!! (2021年8月14日 12時) (レス) id: c153dc8275 (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - ベルモットさん» 色気…!!ありがとうございます!嬉しいです…! (2020年4月19日 13時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
ベルモット - ストリート展開や文章に色気があってリアリティーが感じられました。 (2020年3月28日 17時) (レス) id: e8970a172e (このIDを非表示/違反報告)
さとう(プロフ) - 黒胡椒さん» ありがとうございます!がんばります〜! (2020年2月19日 0時) (レス) id: 419fa80be8 (このIDを非表示/違反報告)
黒胡椒(プロフ) - 好きです!更新頑張ってください! (2020年2月18日 16時) (レス) id: e2f590a1cb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:さとう | 作成日時:2020年2月9日 21時