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カチッ、シュー…と、電気ケトルがお湯の沸いた合図を鳴らしたけど、二人とももうどうでも良かった。
「…会いたかった」
離れた唇を、今度は私の耳元に寄せて、囁くように言われた言葉に、また鼓動が速くなる。
「LINEでも、電話でも足りんくて。A、明日は休みかなあ、って思ったら、いてもたってもいられんくて」
こんなに、自分の気持ちを言ってくれる人だっただろうか。
甘くて、どこか切ない言葉に、きゅっと胸が掴まれる気持ちになる。
「そしたら?いつまで待っても帰ってこーへんし?飲んで帰ってきとるし?」
急に拗ねたような口調になり、慌てて「ごめん、今日は前から会社の人に飲みに誘われてて」と言い訳がましい言葉が出た。
「ええよ、別に。Aが今の会社の人と仲良うしてるのは悪い事じゃないしな」
ふふ、と低い声で笑う彼に、ホッとする。
「…でも」
少し変わった声色に、緊張する。
けど、その後に聞こえた言葉は、
「Aが段々こっちの暮らしに慣れてきたんかなあ、と思うと、寂しい気もするなあ…俺のことも、考えてて欲しいし…」
普段の彼らしくない言葉で、心の奥が刺激される。
私からの返事の代わりに、こちらから強めに抱きついた。彼がピクリと反応したのが分かった。
志麻くんの胸に顔を埋めたまま、話をする。
「さっきね、志麻くんから電話きたとき、ちょうど志麻くんの事考えてたの」
「…ほんまに?」
「うん」
志麻くんが、身体を少し離して、私の顔を覗き込んだ。
「どんな事?」
「えっ、その、えーと…」
形勢逆転。今度は私が小さい声で言葉を発した。
「…寒かったから、志麻くんに、温めて欲しいなあ、って」
しばしの沈黙。
彼にこういう事を言うのはまずいことになる気がする、と思った時にはもう遅かった。
紫色の瞳がキラリと光ったように見えた。
「それ、誘ってんの?」
「え、いや、そういう訳でも…ない…と思う
…」
ごにょごにょと誤魔化す私を見て、志麻くんが妖しく笑う。
「じゃ、一緒にあったまるか」
「え」
「…やっぱ、Treat も欲しいしなあ」
そう言って私の脚を撫でる手に、彼が言わんとしているTreatの意味を察して、顔が熱くなった。
今年のハロウィンは、彼のお陰で、Treat みたいに甘い甘い日になった。
ver.violet END
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しろ鮎(プロフ) - 白雨さん» わー!白雨さーん!コメント下さってたんですね、返事がめちゃくちゃ遅くて申し訳ないです…ありがとうございます!ハロウィンにかこつけてイチャイチャしてるだけな感じですが(笑)、書いてて楽しかったです。次も今準備中なので(12月なのでアレです)良ければ〜! (2020年12月3日 22時) (レス) id: dffb4b3955 (このIDを非表示/違反報告)
白雨(プロフ) - 新作出してらしたんですね……!今回の短編集も四人の特色がよく出ていて愛らしさを感じる雰囲気でした!ハロウィンのお話を書かれるとは予想していなかったので新鮮な感じです(笑) やっぱりしろ鮎さんの書くお話大好きだなーと思いながら読ませて頂きました(*´艸`) (2020年11月24日 22時) (レス) id: f9e7441818 (このIDを非表示/違反報告)
しろ鮎(プロフ) - ちぇろさん» ちぇろさんご無沙汰してました、今作もお付き合いありがとうございました!一つのテーマを設けて作るの楽しかったので…またやろうかな?と思い始めてしまいました笑 またよろしくお願いしますー! (2020年10月30日 8時) (レス) id: dffb4b3955 (このIDを非表示/違反報告)
しろ鮎(プロフ) - リセットさん» 初コメありがとうございます、前作も読んで下さったんですね…嬉しいです!ときめきをお届けするのが私の作者としての目標なので、リセットさんにはお届けできたようで良かったです〜! (2020年10月30日 8時) (レス) id: dffb4b3955 (このIDを非表示/違反報告)
しろ鮎(プロフ) - せせ@れいとうるぅれっとさん» コメントありがとうございます、最後までお付き合い頂きありがとうございました〜!自己満足の小説なんですが、お楽しみ頂けて良かったです!またよろしくお願いします〜! (2020年10月30日 8時) (レス) id: dffb4b3955 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2020年10月11日 6時