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まさか。
通話を切るのも忘れ、スマホを掴んだまま、思わず小走りになる。
どんどん近づくその影は、やがて壁から離れて、こちらへ向かってくる。
今、一番会いたかった人がそこに居た。
「…志麻くん」
立ち止まり、名前を絞り出すように言うと、目の前の彼はへらりと笑った。
「えへへ、来ちゃった」
おどけたように言った彼の手を思わず掴む。
「冷た…!どのくらい待ってたの!?」
「えー、大して待ってへんけど」
「嘘!ごめんね、遅くて…!」
「いやいや、俺が急に来たんが悪かったんやし」
すごく申し訳ない気持ちになって、彼の手を掴んだまま、「とりあえず、入ろ」と、部屋へ連れて行った。
*
「綺麗にしてんな、さすがA」
「まあ、仕事ばっかで家にほとんど居ないからね…」
とりあえず電気ケトルに水を入れてスイッチを入れ、コーヒー(と言ってもお湯を注ぐだけの)を2つのカップへ入れた。
「でも…どうしたの、急に?」
お湯が沸くまでの数分の沈黙も勿体なく感じてそう聞くと、リビングをキョロキョロしていた志麻くんは、私のいたキッチンスペースへ入ってきた。
急に距離を詰められて驚き見上げる私を見る目は、とっても優しくて、どこか色香を纏っていて。
その紫の双眸に見惚れているうちに、頬に手が当てられる。
さっきより幾分か温かくなった彼の体温を感じて、心臓が跳ねた。
数秒見つめ合ったところで、彼の口から出た言葉は、予想外の言葉だった。
「“Trick or Treat?”」
「えっ」
彼独特の発音で発せられた言葉に、反射的に声が出る。
…そういえば、明日(といってもあと約1時間で明日になるけど)はハロウィンだ。
さっきの居酒屋さんにもカボチャお化けの置物がいくつか置いてあった。
「えーと、お菓子…は…ないんだよね…」
生憎、会社で少しつまむようなお菓子も切らしているし、そもそも家にそんなに居ないから置いてあるお菓子もない。
「じゃあ、Trickやな」
ニヤリと笑った顔があっという間に近づいてきて、唇が重なる。
一旦離れてもまたすぐに、何回も唇を合わせてきた。
久しぶりの感触に、身体中の血液が急速に動き出したようで、全身が熱くなる。
溢れ出しそうな気持ちを抑えるように、志麻くんの服の裾をきゅっと掴んだ。
彼もそれに応えるように、私の腰へ腕を回して引き寄せて、力強く抱きしめた。
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しろ鮎(プロフ) - 白雨さん» わー!白雨さーん!コメント下さってたんですね、返事がめちゃくちゃ遅くて申し訳ないです…ありがとうございます!ハロウィンにかこつけてイチャイチャしてるだけな感じですが(笑)、書いてて楽しかったです。次も今準備中なので(12月なのでアレです)良ければ〜! (2020年12月3日 22時) (レス) id: dffb4b3955 (このIDを非表示/違反報告)
白雨(プロフ) - 新作出してらしたんですね……!今回の短編集も四人の特色がよく出ていて愛らしさを感じる雰囲気でした!ハロウィンのお話を書かれるとは予想していなかったので新鮮な感じです(笑) やっぱりしろ鮎さんの書くお話大好きだなーと思いながら読ませて頂きました(*´艸`) (2020年11月24日 22時) (レス) id: f9e7441818 (このIDを非表示/違反報告)
しろ鮎(プロフ) - ちぇろさん» ちぇろさんご無沙汰してました、今作もお付き合いありがとうございました!一つのテーマを設けて作るの楽しかったので…またやろうかな?と思い始めてしまいました笑 またよろしくお願いしますー! (2020年10月30日 8時) (レス) id: dffb4b3955 (このIDを非表示/違反報告)
しろ鮎(プロフ) - リセットさん» 初コメありがとうございます、前作も読んで下さったんですね…嬉しいです!ときめきをお届けするのが私の作者としての目標なので、リセットさんにはお届けできたようで良かったです〜! (2020年10月30日 8時) (レス) id: dffb4b3955 (このIDを非表示/違反報告)
しろ鮎(プロフ) - せせ@れいとうるぅれっとさん» コメントありがとうございます、最後までお付き合い頂きありがとうございました〜!自己満足の小説なんですが、お楽しみ頂けて良かったです!またよろしくお願いします〜! (2020年10月30日 8時) (レス) id: dffb4b3955 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:しろ鮎 | 作成日時:2020年10月11日 6時