39.公園 ページ39
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ぶんぶんと揺られる右腕を、私はなおも見つめ続けていた。
先輩は何も言わずに、でも、怒っているとか、そういう訳でもなく。わずかに上がった口角だけで、その心の中までを見抜くことはできなかった。
この人はいったい。
何を考えているんだろう。
何も言わないし、何も聞きたいと思わなかった。
先輩は先輩で。
文芸部の、私以外の唯一の部員で。
私たちの間に、それ以上はいらないなんて。
勝手に思っていた。
初めての感情だ。
平野先輩を、もっと、知りたいと思った。
好きって言われて、好きになる。なんて。
少女漫画ではよく起こりうる現象。
自分はそうはならないと思っていたけれど。
好意ではないにしろ、それなりの興味が湧くってことは、やっぱり私も、そういうこと。
悔しいけど、人間らしいのかもしれない。
揺れる腕に合わせて、ゆるやかに景色が流れていた。
ふと、足を止めた先輩が、そこが、終着点だって、そう言うみたいに、振り向く。
下ばかり見ていた私は気づかなかったんだけど、いつの間にか見慣れた学校の周辺からは、大分遠い場所に来ていたみたい。
初めて見るその場所に、思わず間抜けな声を漏らした。
「ここ、って」
平野「俺の昼寝場所」
「昼寝?ここ、公園ですよね?」
平野「そ。Aの学校てさ、こう、ビルの隙間を縫うみたいにして建ってるやん?だから、日当たりわるくて、寒いねん」
まるで他人事のように話しているけど、一応、あそこは平野先輩の学校でもあるのにな。
やっぱり、この人はよく分からない。
分からないことだらけだ。
平野「昼頃とか、ちょうあったかくて、気持ちええんやで?」
自慢げに話す平野先輩が、まるで自分のテリトリーを拡大するボス猫みたいに見えて、ついつい笑みがこぼれる。
猫は人より、場所につく、って聞いたことあるし。
見れば見るほど、猫っぽい。
公園の中央には、小さめな砂場があって、誰かが置き忘れたのであろう、青いバケツと小型のシャベルが砂に埋もれているのが見えた。
3つほど遊具が置かれた、立派とは言えない公園だったけど、静かなその空間は、私達が日向ぼっこするにはとても最適だった。
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紀衣 - 夏(なの)さん» わーー!待っていて下さってありがとうございます!コメントすごく嬉しいです!訳あってゆるゆる更新になりますが見届けていただけたら嬉しいです…(>_<) (2018年12月12日 23時) (レス) id: afbfeebc90 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 待ってました。久しぶりの更新とてもうれしいです!! (2018年11月18日 13時) (レス) id: d826207ec4 (このIDを非表示/違反報告)
紀衣(プロフ) - 夏(なの)さん» たくさん感想ありがとうございます!すごく嬉しいです!切なさだったり、廉くんのリアルさ(笑)だったり、気をつけながら書いていた部分に気づいて頂いてすごく有難いです!拙い言葉ばかりですがこれからも応援して下さると嬉しいです!マフラーもぜひ買ってください!笑 (2018年1月14日 17時) (レス) id: cdb8449478 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - メインの廉くんが、リアルで凄いと思います!廉くんの細かい所まで表現されているし、それに出てくるボキャブラリーが半端じゃないです。とても読みやすくて…!なんかマフラー欲しくなってきました(笑)更新楽しみです。頑張って下さい! (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 初コメ失礼します!前作が気になって読ませて頂いて…とてもドンピシャリで!!Twitterもフォローさせて頂きました!最初はあいくるしい。って束縛とか、そういう系なのかな?と思っていましたが切ないお話で………きゅんきゅんと言うよりも染みると言うか…↑に続く (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紀衣 | 作成日時:2017年12月30日 20時