38.ハニー ページ38
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自分でもびっくりするくらい、足が軽かった。
例えるなら、そう。夢の中で、何かから逃げているみたいな感覚。ふわふわと、現実味のない足取りが、心地良い。
平野先輩の口からこぼれた言葉に、反応するまで時間がかかった。
「・・・え?」
なんとか、声を絞り出したのは。
逃げ出したい現実が、もう見えない位置まで遠ざかった、それくらい、走った後だった。
「ほしい、って、どういう、」
平野「んー?」
聞こえてないのか。とぼけているのか。
目の前で揺れるブレザーに、荷物を全て学校に置いてきてしまったことに今さらながら、気付いた。
荷物は・・・まあ、あとでなっちゃんにでも届けてもらおう。
早退理由は、もう、なんでもいいや。
生理痛でもなんでも、言い訳ならいくらでも思い付く。
そんなことよりも、今は。
視界の真ん中を行く、彼のことしか。考えたくなかった。
平野「好きってこと、やで」
さらりと、冬の乾いた風のように。
耳を掠めていった言葉が、すり抜けていく。
とても、自然な流れで。
好きってこと。
おそらく先輩の口から出たのだろう。
少しも遠回りをしない、真っ直ぐな言葉が、私の胸の奥をを、じわじわと広げていく。
簡単で。単純で。
でもそれが、どういうことなのか。分からない。
「・・・また、そんな、」
平野「嘘ばっかり?」
わずかに首が傾いて、先輩の綺麗な横顔が太陽に縁取られていた。
ふ、って頬が緩んだ気がして。
少しだけ、ホッとした。
いつも通りだって。
そう、思いたかったのかもしれない。
なのに、なんで。
先輩。
こっちを見て、ください。
あんなに優しかったはちみつ色の瞳も、今では先輩の長い睫毛に隠れて、見えない。
平野先輩と目が合わないなんて、初めてのことで。
握られた手のひらを、見つめることしかできなかった。
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紀衣 - 夏(なの)さん» わーー!待っていて下さってありがとうございます!コメントすごく嬉しいです!訳あってゆるゆる更新になりますが見届けていただけたら嬉しいです…(>_<) (2018年12月12日 23時) (レス) id: afbfeebc90 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 待ってました。久しぶりの更新とてもうれしいです!! (2018年11月18日 13時) (レス) id: d826207ec4 (このIDを非表示/違反報告)
紀衣(プロフ) - 夏(なの)さん» たくさん感想ありがとうございます!すごく嬉しいです!切なさだったり、廉くんのリアルさ(笑)だったり、気をつけながら書いていた部分に気づいて頂いてすごく有難いです!拙い言葉ばかりですがこれからも応援して下さると嬉しいです!マフラーもぜひ買ってください!笑 (2018年1月14日 17時) (レス) id: cdb8449478 (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - メインの廉くんが、リアルで凄いと思います!廉くんの細かい所まで表現されているし、それに出てくるボキャブラリーが半端じゃないです。とても読みやすくて…!なんかマフラー欲しくなってきました(笑)更新楽しみです。頑張って下さい! (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
夏(なの)(プロフ) - 初コメ失礼します!前作が気になって読ませて頂いて…とてもドンピシャリで!!Twitterもフォローさせて頂きました!最初はあいくるしい。って束縛とか、そういう系なのかな?と思っていましたが切ないお話で………きゅんきゅんと言うよりも染みると言うか…↑に続く (2018年1月14日 8時) (レス) id: 5d55c4341d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:紀衣 | 作成日時:2017年12月30日 20時