氷の国20

【公開練習】2　★ ページ40

「今年もスケート大会には出ないようですが、王子とは違ったタイプのスケートをしますので、見ている方々も楽しめるかと。」

「まぁそうだね…。」

無良くんのダイナミックなジャンプがとても見ごたえがあるのは、自他共に認める所ではある。

だがしかし！
無良くんを見ていると、どうしてもAとの事が頭をちらつくのだ。
スケートとそれを公私混同する気はないけど、はっきり言って二人を会わせたくない。

「今日ってA来るのかな…。」

何気なく呟いた言葉にまっちーが過剰に反応する。

「それは存じ上げませんが、私が側室さまの立場なら、久しぶりの夫のスケートを見に来ないなどあり得ません。」

「ちょ、声おっきい！」

つか恥ずかしい。
まるでAが来るから頑張ろうって気合い入れてるみたいじゃねぇか。

周りを見渡すと、ここにいる人があえて聞こえないふりをしているのではないかという気がするから不思議だ。

そんな中、このバックヤードに一際身体のがっしりとした男性がやってきた。

「あ。」

そしてそのまま真っ直ぐ俺の側まで来て、忠誠を誓うように膝まずくのは、ついさっき話題にしていたお城の騎士である無良くんだ。

「王子さま、この度は同じリンクに立てることを光栄に…」

「え？ちょっと待って、ストップ！」

「……？」

でも、いきなりものすごい違和感を感じて彼の言葉を遮る。

「無良…くんの立場も分かるけど、ここではお互い選手として振る舞ってもらえないかな。」

そして呼び捨てではなく、あえて無良くんと呼ぶ。
リンクに立ったら王子でも騎士でもなくスケーターなのだから、身分とかは抜きにしたかったのだ。

「…王子さまがそうおっしゃるなら。」

「うん。おっしゃるから今の今から普通でよろしく。」

少し考え込んだ無良くんに対して軽く右手を上げたところで、ようやくスケート靴を履き終えた俺は、立ち上がって手袋を着ける。

そして頭を二、三回振ってから徐々に身体を動かしてゆく。

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