氷の国20

【パーツ】9　☆ ページ38

「あっ…。それってひょっとしてオリジンという方では！」

手をぽんと合わせて、“黒い翼と阿修羅の瞳を持つ、魔界の王だよ”と教えてもらった言葉を思い出す。

「Aよく知ってるねー。」

「美姫さんが言ってました。ゆづさんが卵から出てきた姿を見て…。」

「そうなんだ。さっすが魔女。」

特に気にする風でもなく、ゆづ王子が二つ目の羽のパーツ作りに取りかかる。

「オリジンさんとはどんな方なのですか？」

「俺も顔は見てないんだけど、なんかあの時の不思議な体験が忘れらんなくてさ。」

背中に羽も生えたし。と私たちしか知らないことを言う。
ゆづ王子が阿修羅の瞳かどうかは時と場合によるけど、今ある黒い翼はまさに魔王のそれだ。

「まるでゆづさんが魔王ですね…。」

「実はそれ少し意識してんの。」

「ちょっと悪い子のイメージです。」

「あはっ。そうそう！」

ということは、今回のフリーでは、魔界の王さまであるオリジンを演じようとしているということ？
…だとしたら、なんて壮大なイメージなのだろう。

「でも本当の魔王にならないでくださいね。」

「なんないなんない。」

「そのうち魔王を取り込んでしもべにしそうで怖いです。」

「もうしもべには充分気を付けるから。」

「絶対、約束ですよ？」

「大丈夫。」

「ゆづさんの大丈夫。は信用できません。」

「あら。」

いつかのまっちーさんの言葉を借りつつ、上目遣いで夫を見つめると、口許をきゅっとむすんで優しく頷かれる。

そんな中、ジョニーさんが探していたであろう薄手の黒い布を持って戻ってきた。

「あったあった。ユヅル、手袋の布はこれで考えてるんだけど。」

「どれ？あ、いいじゃん。」

手袋は透け素材の黒…ということは、本当に全身真っ黒と金色にするおつもりなんだ。

なんだかオリジンという人物像さえも、ゆづ王子本人にすりかわってしまいそうだった。




.

【公開練習】1　★→←【パーツ】8　☆

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す