氷の国20

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★ゆづサイド

誰もいないリンクの間に、エッジの滑る音が響く。

氷の上に出来た軌道を確かめながら、何度も同じ角度で入る練習をしつつ跳ぶジャンプは、クワドアクセルだ。

「昨日はこの入りで跳べたんだよ…。」

流れる汗をぐっとぬぐって、もう一度最初のポジションへ。
でも冒頭で跳ぶ予定のジャンプだから、体力が無くなる前にやめるつもりではいる。

今日はこれで最後にしようと再び挑んだら、今度は空中で抜けてしまった。

「くっそ！」

両足でがん！と着氷する羽目になり、悔しくてうつむくはめになる。

練習とは言え、最後くらいは良いイメージで終わりたかったけど、無茶をして怪我でもしたら元もこもないので、跳びたい気持ちをぐっと我慢して他のジャンプに頭を切り換える。

そんな時挑むのは、クワドトゥループだ。
今回はこのジャンプの後に３回転アクセルを跳ぶという、ジャンプシークエンスを予定しているので、この最初のジャンプがとても重要になってくる。

自分にとっては、後半に入れることに意味があるジャンプなので、今みたいに疲れた状態で跳ぶことで感覚を掴んでおきたいところだ。

しかも、単独のクワドトゥループの後に跳ぶから、転倒なんてしようものなら、二つ目がリピート扱いになって点数がぐっと減ってしまう。

ここは単発ジャンプからジャンプシークエンスまでを一区切りにして練習した方がいいか…。

短い助走に入りながら、足をクロスさせた後つま先をついてジャンプする。
きゅっと身体をしめて回りつつ、今度はそこそこ綺麗な姿勢で降りることが出来た。

うん、いい感じだ。
頷きながらふと時計を見ると、一般開放を知らせるベルが鳴った。

「やべっ！」

集中してて気付かなかった。
この時間は出来れば焦りたくないので、早速クールダウンに入る。

まぁ練習時間の最後がかぶるのはよくあることだ。
いつも通り、自分のペースでゆっくり身体を静めていたら…。

「王子さまだ…！」

すぐに入り口がざわついて人の気配がしたので、ちらっとだけ視線を向けると、まだ１０代前半とおぼしき若者が数人、興味津々にこっちを見ていた。

学生の仲良しグループかな。
服装も普通っぽいから、遊びがてら滑りに来てくれたのだろう。

スケートは、競技として滑っている人の方がはるかに少ないので、こうして誘い合って来てくれるだけでも嬉しい。

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