秘書ってペットじゃないの、知ってます？【夏油傑】

21・わたしだけの‥ ページ21

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ー夏油sideー


きっかけは些細な事だった。外出先から帰社したついでに書類片手に人事部を訪れた。いつもは秘書にお願いするけど、たまには社内視察も兼ねて。


廊下の向こうから話し声。受付の女の子がお客さんを案内していた。案内したらさっさと戻ればいいのに部長を待っている間、その子は律儀にお客さんの相手をしていた。


ニコニコと話を聞いている姿に優しい子なんだな、と少しだけ気に留めながら書類を渡して所用をすませる。


社員のモチベーションが高ければ作業効率も上がりひいては会社の業績アップに繋がる。フロアのドア付近に立ち、社員の働きをザッと見渡していた。



すると後ろから小さな声。


「すみません、お客様、失礼ですが社内の者をお探しですか？」


ん？


辺りには誰もいないのでわたしか？、と振り返るとそこには先程の女の子が立っていた。


『え？あぁ、大丈夫だよ、ありがとう』


そう言うとその子は頬をぽっと染め


「‥あ、私ってば余計な事を。すみません失礼しました。ではごゆっくり、」


と、ささっと逃げるように帰っていった。少しの間後ろ姿を見ていた。あぁしまった、彼女に恥をかかせてしまったな。私を社外からのお客さんだと思って親切にしてくれようとしたのにもう少し上手な言い方があったんじゃないか。


少しの申し訳無さを抱えるも追いかけて謝る事でもないだろうし。きっと彼女はあれが普通なんだ。誰にでも親切で優しく接する。会社の顔の受付係として褒められるべき態度だ。


彼女の居なくなった廊下を進みエレベーターに乗り上を押す。先程の笑顔がチラチラと浮かんでは消えた。




それがAとの出会いだった。




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慌ただしく過ぎる毎日で、気づけば彼女の姿を盗み見るようになった。１階の受付カウンターにいる彼女は役員専用のエレベーターからでは横顔しか拝めない。ほらまたニコニコしてる‥。褒められるべき姿なのに何故か胸がモヤモヤした。






ある日、硝子がキレながら専務室に来た。


『夏油！伊地知が入院だって。どーすんの？！』


どうするもなにも‥どうしようね？


『秘書なんて簡単に集まんないよ？人事に言って採用かけて面接して研修して‥あーめんど。社内にいる人間でどうにかならんかねー‥』


と煙草に火を点ける硝子。おいここ禁煙なんだけど、と言いながらふとある名案が浮かんだ




『ねぇ硝子、お願いがあるんだけど‥』





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