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◆◇◆◇◆◇


あれは雨の日だった。

火曜日の放課後、私はいつもみたいに椅子に腰掛け、目の前にある石膏像をデッサンしていた。

「蒼井」

先生に呼ばれて、鉛筆を止めた。
横を見ると、同じように鉛筆を動かしていた先生が立ち上がっている。

「これから用事があるからちょっと抜けるけど、続けてて。すぐ戻ってくるから」

「わかりました」

そう言って先生を見送った。

先生の背中が廊下に消え、扉が閉まる。

その瞬間に、ふう、と肩の力を抜いている私がいた。

私が先生にふられてからしばらく経つ。

迷惑だと言われて、好きという想いは打ち消すことにした。
先生は「嫌いになることはない」って言ってくれたけど、好きで居続けるのはやっぱり先生を困らせることになると思う。

それに行き場のない想いは消してしまうしかない。地縛霊を解き放つように、成仏させてやるのが1番なんだ、きっと。

でも、それで受験まで消えてくれる訳じゃない。

デッサンの練習は勿論続いていた。
私は何事もなかったように美術室の扉を開け、先生は課題を与えて添削する。
今までと特に変わらないルーティンが行われた。

ぐっと伸びをした。
立ち上がって、先生の絵を覗き込む。

やっぱり上手いなぁ、先生。
画用紙に手を突っ込んで取り出せてしまいそうな程、本物にそっくりだ。

先生に比べると私はまだまだだな。
スカートの上で拳をぎゅっと握りしめる。

1つ、叶えたいことがあった。

先生を描きたい。
私から見た先生を上手に描いて、見せつけてやりたい。
私の目に映る先生が、どれだけ綺麗なのか。
私がどれだけ先生を好きなのか。
そんなものが伝わる程、私に画力も絵心もないんだけど。

それに。
先生を描いている間、私は堂々と先生を見つめていることができる。

なんて、下心のある自分が恥ずかしくなって「あーー」と叫びたくなった。

石膏像が置かれた机にぐでっともたれかかった。
髪が雨のせいでうねっていて邪魔だ。
うねった髪から守るように、腕に顔をうずめる。

今日、髪がんばったのにな。
お母さんの高いトリートメント勝手に使って、今朝もいつもより丁寧にブローして、毛先を少し巻いてみたりして。

今日だけじゃない。火曜日はいつもそうだ。
先生に会える火曜日だけは、いつもよりちょっとだけ手入れした自分になる。

もうとっくにふられてんのにな。

深いため息をついて、目を閉じる。

なにやってんだろ、私。

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さな×りお(プロフ) - 緑えいたぁーさん» えぇ…ありがとうございます! めっちゃ嬉しいです更新頑張ります! (2019年5月3日 20時) (レス) id: e17c1230c5 (このIDを非表示/違反報告)
緑えいたぁー(プロフ) - さなさんとりおさんの書くお話が大好きです!いつも楽しみにしています!もしかしたら歳近いんじゃないかな〜って思ったりしたりしなかったり…御二人のファンとしてずっーと応援してます! (2019年5月2日 22時) (レス) id: 847f0c09f1 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さな×りお | 作成日時:2019年4月24日 22時

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