【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

恩を仇で返す ページ37

私は、彼を決定的に傷付けた。傷付けてしまった。傷付けたかった訳じゃない。そうしたくてそうした訳じゃない。けれど、それでも、傷付けた。私は私自身を守るためだけに、彼を傷付けたのだ。それの報いだというように胸の辺りが痛くなって、それは鋭くズキズキと痛んで、けれどそんなものではまだ足りないと思った。彼に付けてしまった傷はこんなものじゃない。私はもっと苦しまなくちゃいけない。私は両手を重ねて口を押さえながら、重ねた方の左手の爪を右手の手の甲に突き立てた。跡が出来て、皮膚が脳に痛みを伝達させて、けれど上手く力が入らなくて血なんて流れない。私はやっぱり自分だけが可愛いのだと思ったらまた自己嫌悪に襲われて、もっと自分を痛め付けたくなった。

涙が止まらなくて、私は泣き続けた。堪えきれずに小さく嗚咽を漏らしながら、泣き続けていた。すると、泣きすぎたせいで心臓に負荷が掛かったのだろう、急に呼吸が上手く出来なくなってきた。指先がまた冷たくなっていった。発作が起きた。どうやら私は、一人で誰にも気付かれないように泣くことすら許されないようで、心電図の異常に気付いた鶴見さんがノックもなく病室に入ってきた。

泣きながら発作に苦しむ私を見て、鶴見さんは顔色を変えて後から入ってきた他の看護師さんに何かを言った。けれど、色々なことが重なりすぎて意識が朦朧としていて、何を言っているのかは聞こえなかった。けれど鶴見さんは頻りに『大丈夫、大丈夫だよ。私が居るからね。お母さん達もすぐ来てくれるからね、大丈夫』と繰り返していた。その声だけが救いで、私は彼女に抱きすくめられながらポロポロと泣いた。

それから気付くと私は真っ白な天井を見据えていて、後からお母さんに聞くと薬を飲んで発作は落ち着き、私が泣き止むまで鶴見さんが傍に居てくれたのだという。


私はいつも、いつだって、誰かに助けられて、救われて生きている。けれど私が与えられるものなんて、やはり何もないのだということを、その時に痛感した。

鶴見さんは以前、そう言った私に、私自身が少しでも元気になることで周りに返してあげればいい、なんて言ってくれたけれど、そんなこと言ったって、だって私は、もうこれ以上良くはならないじゃないか。


私には何もない。あるとしたら人を傷付ける要素だけ。大切な人を傷付け、疲れさせるだけ。

私のためにあんなに良くしてくれた彼にすら、私は何かを返すどころか恩を仇で返すようなことをしたのだから。

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