人生の一大イベント ページ24
そんな会話を終え、次に紡ぐべき言葉はないかと探してみるけれど見つからなくて、俺は不自然に視線を真っ白でシミや汚れひとつ見当たらない壁に逃がした。本当に、何もない。ただ真っ白な壁。その一点にひとつだけ、黄色い花が描かれている小さな絵がシンプルな薄茶色の額縁に飾られてあるけれど、その絵ですらこの壁と同化してしまうほどに味気のないものであった。急遽入院することになってしまったため、Aの私物なんて出掛ける際に持ってきていた鞄くらいのもので、がらんとした病室には以前の病室よりもずっと色がなかった。そんな病室の中心にある白いベッドの上で、彼女は口をきゅ、と結んで天井をひたすらに仰いでいた。天井も他と同じように、白い。
ほんの少しだけ気まずさを感じる。どことなく空気がピリついているというか、いつもAと会っていた病室とは違う雰囲気だった。前に彼女が入居していた病室とはまた違う病室だから、なんて単純な理由なんかではないだろう。そこに彼女の息遣いだとか、眉や目元の些細な動きさえも影響しているように思えた。
俺は再び思う。ここに居ていいのだろうか、と。Aはもしかしたら、気付かないうちに俺の後ろで助けを求めていたかもしれない。それに気付けなかった俺を内心では責めているかもしれない。それにもしそうじゃなかったとしても、彼女は今日のことで疲れていることは確実なのだ。今はそっと現状を理解し、疲れを少しでも取り除くことが先決ではなかろうか。
やはりここは鶴見に任せて俺は一旦帰った方がいいだろう。そう思って声をかけようとしていると、Aが「本当に、今日はすみませんでした」と突然口にした。
「え?」
「……折角お出掛けに連れていってもらって、私のお願いも叶えてくれたのに、私のせいで台無しになっちゃいました」
「いや、だからそれは」
「ごめんなさい」
その声は酷く重たくて、深く深く泥の中にずぶずぶと沈んでいくようだった。罪悪感が彼女の重りとなり、彼女を沈めていくようだった。今まで聞いたことのないAのそんな声に、俺は否定する言葉を失ってしまった。
Aは天井から視線を俺に再び向けて、「ちゃんと最後まで普通に、ばいばいまでしたかったのに」と、なんだか泣きそうな顔をして呟くように言った。
「こんなことになっちゃって、ごめんなさい」
「……A」
謝ることなんか何もない。そんなに悲しそうな顔をするなよ。そう思った。けれど、そうだ。
今日は彼女にとって。Aにとっては、大袈裟かもしれないが人生の一大イベントだったのだ。
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ピピコ(プロフ) - 獅子の子さん» しーちゃん!いつもありがとうぅぅぅ忙しい中来てくれてありがとうねぇぇえ返事遅くてごめんんん!!シリアスシーンは私もHPをすり減らしながら書いてるからね(笑)ちょっと更新お休みするけど戻ってきたらまた頑張るので、よろしくお願いします!!! (2019年8月6日 23時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
獅子の子(プロフ) - ピー姉さん!続編おめでとうございます!リアルが忙しくてなかなかこっちに顔を出せなかったんだけど、久しぶりに来てみたら続編まで出てて...!嬉しいの極みです(≧∀≦) ピー姉が書くシリアスシーンの緊迫感が好きだぁ...無理せずに更新ファイトじゃ! (2019年7月14日 10時) (レス) id: af0bbdf801 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 追いつめられたときのキャラを書くときは自分でもダメージを負います(笑)二人の物語が今後どの方向に向かっていくのか、見守っていてくださると嬉しいですれ応援ありがとうございます!(*^^*) (2019年7月8日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
桜(プロフ) - わわわっ……。もうー、これからどうなっていくのかドキドキですっ! 銀さんあんまり自分を責めないでっ。これからの展開がものすごく楽しみですっ! 応援してます! (2019年7月4日 18時) (レス) id: f38863f7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 桜さん» 桜さん!ありがとうございます!!ですね!銀さんと言えば銀色です!夢主ちゃんは何色がいいかな…。私も優しい銀さんがめっちゃ好きですし繊細な夢主ちゃんと不器用ながらも接してくれるのがすごくツボです(笑)そう言って頂けるとやる気が出てきます!頑張ります! (2019年6月5日 0時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年6月1日 22時