【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

途方もなく長い時間 ページ15

下を向いて、自分の両手を見据える。苦しみ表情を歪める彼女に何もしてやれない、無力な両手を睨み付ける。ほんの少し前まで、楽しそうに笑ってくれていたのに。コロコロと表情を変えて、今日という一日を過ごしていたのに。そのまま、楽しかったって笑顔のまま、今日の日を終えるはずだったのに。治療室に入っていく前に最後に見たAの顔は、まるで今日の出来事がすべて嘘だったんじゃないかと思わせるほどになんの面影もなかった。あの笑顔の一欠片だって残ってはいなかった。俺の中でも、彼女の笑顔によって綻んでいたものはもう何処かへ姿を眩ませてしまって、今は重苦しいものばかりが俺の中で渦を巻いていた。

無理をさせすぎてしまったのだろうか。
もしかしたら俺のせいで、彼女は発作を起こしたのではないか。

そんな考えが頭に浮かんだ。退院してから暫くの間、Aは体力をつけるために軽い運動をしていたと言っていたが、それにしたって負担はあっただろう。あまり色々なところに連れていったりしたから、彼女に負荷が掛かって、こんなことになってしまったのではないか。

だとしたら、俺は。


「銀さん…！！」


と。そんな思考を巡らせていれば、そんな声と一緒に二人分の足音が聞こえてきた。その声に顔を上げると、新八と神楽が廊下を小走りで走ってこちらに向かってきていた。先程病院の電話で万事屋に連絡を入れていたことを思い出した。帰りが遅くなったら心配するだろうし、二人はAとも親しい。彼女が倒れたことを連絡しない訳にもいかなかった。

軽く息切れをしながら、新八は言う。


「Aさんは…！？」

「まだ治療室だ」

「銀ちゃん…！A姉大丈夫なの…！？」

「……」


神楽の言葉に、俺は何も返すことが出来なかった。大丈夫だと信じたいけれど、事態はそんなにも簡単にその場しのぎの言葉で言いくるめてしまえるほど単純なものではないだろう。言葉を探してみたが、やはり何を言ってやればいいのか、俺には分からなかった。

ただ一言、「悪い」としか言えなかった。


二人はそれから何も言うことなくその場で立ち尽くしていた。一秒一秒が酷く長いものに感じられてしまって、あれから30分ほどしか経っていないはずなのに、もう数時間はここに座っているような気がする。途方もなく長い時間を過ごしているような気がする。


それから、どれくらい経っただろう。また足音が聞こえてきた。二人分の足音だ。

誰だろうと顔をまた上げてみると、そこにはAの母親ともう一人…恐らく父親だろう人が居た。

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