【銀魂】君と共に生きる春 6【坂田銀時】

無力感 ページ13

その時。少しずつ近付いてくる車の音があることに気付いた。俺達が今まで走っていた方向からその音は聞こえていて、俺は呆然とするようにそちらの方向を見据えていた。これで何とかなるかもしれないとか、助かるかもしれないとか、そんなことを考える余裕すらなくて、ただ俺は手のひらに感じるAの手の冷たさばかりに意識を向けていた。握っていてもその手が温度を取り戻すことはなくて、このまま音もたてずに彼女は消えてしまうのではないかとばかり考えてしまっていた。緩やかなカーブになっているこの道路では中々音の正体が姿を現さないけれど、音がすぐ近くにまで迫り、そして漸くその姿を見せた。

それは思いもよらない、けれど見覚えのある車だった。黒と白のボディーで、車体の上には赤いランプがついていて、サイレンは鳴らしていないけれど赤い光がチカチカと瞬いていた。

それはパトカーだった。真選組のパトカーだった。


パトカーはこの場の異様な状況にキッとブレーキをかけて停車し、そして扉を開けて出てきたのは、これまた知っている顔だった。


「旦那じゃないですか！ど、どうしたんですかこんなところで…！！」


真選組監察の山崎。助手席には名前は知らないが同じく真選組の隊士が乗っているようだった。山崎は車から飛び出してくるなり目を見開いてこの状況を見渡している。俺はほとんど何も考えずに声を出す。情けないくらいに焦りに駆られた声だった。


「頼む助けてくれ！！心臓の病気の発作が起きたんだ！！」

「し、心臓…！？と、取り敢えず乗ってください！！原チャリはこっちで何とかするんで！！」


山崎がパトカーの後部座席の扉を開けて、俺はAを抱えて急いで乗り込んだ。Aを座らせて俺も隣に座る。

原チャリを道の端に寄せてから運転席に戻った山崎がこちらをミラー越しに覗きながらに言う。


「その人寝かせてあげなくてもいいんですか！？」

「いや、前に座ってた方が楽だって言ってたから…」


兎に角急いでくれ！！と。俺は叫ぶように言う。山崎は緊張感に満ちた声で「はい！！」と言ってパトカーを急発進させた。助手席の奴が何かを操作して、途端にサイレンがけたたましく鳴り出した。


「ぎ、さん…」

「A！大丈夫だすぐに病院に連れてってやるからな！！」

「ごめ、なさ……」


苦しそうに短い呼吸を繰り返した後、Aは目を固く閉じて気を失ってしまった。俺は夢中でAを呼んだけれど彼女は意識を取り戻してはくれなかった。

ひたすらに冷たい彼女の手に、俺は無力感を感じずにはいられなかった。

まるで分からない→←ブレーキ

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