八十五 ページ10
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坂本と口論になり、気分が晴れないまま、すまいるに出勤していた。
「A、顔が暗いぞ。大丈夫なのか?」
ひの屋を出ようとした時、月詠に声をかけられたが、Aはにこりと微笑むことしかできずにいた。
その腕を月詠は掴み、
「無理はするなよ」
と声をかけ、それにAはまた微笑み、吉原を後にした。
「おう、Aちゃん、今日も会いにきたよ!」
「ありがとうございます。お隣失礼します」
いつものように、客に笑顔を浮かべ、接する。
しかし今日は、
「あれ?Aちゃん、今日調子悪い?大丈夫?」
「そんなことないですよ!気のせいです!」
と客に心配される程に、貼り付けたような笑顔だった。
(ここで働く以上、お客さんに心配されるなんて以ての外だ!)
そう決意し、客との話を楽しもうとすると、
『わしは他の男がおまんに触れたり、おまんと楽しそうに話すのは嫌ぜよ』
と坂本の声が、心をちくりと刺す。
それをなくしてしまおうというように、酒を飲み干す。
客との会話もいつも以上に大袈裟に反応する。
全てが自暴自棄になっていた。
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「…すみませんでした」
「Aちゃん、今日はどうしたのよ。らしくないじゃない」
客にばれなかったものの、プロである妙達には投槍な態度をばれてしまう。
閉店後、Aは妙に叱責されていた。
「ちょっと考え事をしてました。仕事中に自分のことで疎かになるなんて失格です。申し訳ありませんでした。以後絶対しません」
Aは深々と頭を下げ、謝罪した。
今日の行動を指摘されるのは当然で、Aは大いに反省していた。
あまりの謝罪ぶりに妙はうろたえるが、
「次がなかったら大丈夫だからね」
とプロとして、先輩としてしっかりと指導をした。
そして、
「何かあったら話聞くわよ」
と友人としての立場の妙が、Aに耳打ちし、更衣室に入っていった。
妙の優しさに、Aはきゅ、と締め付けられたような気がした。
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夜は更け、人通りの少ない道を歩く。
月は雲に隠れ、夜道を照らすのは手元の携帯電話の画面のみ。
『土方さん、退勤しました。今日もよろしくお願いします』
そう、連絡を入れようとした時だった。
「Aちゃん、偶然だね。今帰り?」
時たまに店に顔を出していた客の一人が、目の前に現れる。
店でのにこやかとした表情は変わらず、
手元に鋭く光る鉄のようなものが見えていた。
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Nattu(プロフ) - connyさん» connyサン!再度コメントありがとうございます。嬉しいです^^いつの間にか4作目で、私自身いつ終わるんだろこれ…状態なので何シーズン続くか未定です笑 これからも温かく見守っていただけると幸いです* 長きに渡るこの作品を読んで下さり誠にありがとうございます (2021年3月3日 12時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - シリーズ4個目…本当にすごいです…!続き楽しみにしてます!頑張ってください! (2021年3月3日 0時) (レス) id: 712cd20bd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年2月25日 21時