八十四 ページ9
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「坂本さん、降ろし」
「理由を聞かな、降ろさん。なんなら今から宿にでも連れ込んで、聞いてやろうか」
坂本の目から怒りの色が溢れていた。
無理矢理にでも連れて行くと、Aを支える手に力がこもっていた。
「明日もひの屋で働くんです。早く離してください」
「それなら、わしが明け方にでもひの屋の姉ちゃん達に連絡入れとくぜよ」
「嫌です。決めたことなんで」
じたばたと暴れ、坂本の腕から抜け出そうとすれば、力強く抱き締められる。
「....わしは他の男がおまんに触れたり、おまんと楽しそうに話すのは嫌ぜよ」
坂本は、眉を下げ、悲しげな顔でAに訴えかけた。
そんな顔で見られたのは初めてで、Aはどきりとしていた。
しかし、それよりも引っかかったこと。
「私には、おりょうさんといちゃいちゃしているところを見せつけて、妬かせて、しまいには…襲うなんて。貴方は良くて私は駄目なんですか」
これだけがどうしても訴えを許す気にもなれなかった。
坂本は慌てたように、
「それは、その!」
弁解しようとするものの、
「坂本さんは我儘ですね。お姉ちゃんの大変さがわかりました」
Aはばっさりとその言葉を遮っていて。
坂本に、力一杯に拳を突きつけ、無理矢理腕を振り解く。
殴られた勢いで坂本は、身体をよろけさせた。
背を向けるAに、
「待て!A!わしはおまんに」
手を伸ばす。
その言葉に、
「…私達、もう暫く距離を置きましょう。じゃあ、また」
Aは振り向かずに、吉原へと足を向けた。
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吉原に近づけば近づくほどに、涙は溢れ出す。
(ああ、私の馬鹿。なんでこんなになっちゃったかな)
涙を拭っても拭っても溢れる涙。
我ながら大人気ないことをしたと自負をしていた。
笑って許す、それで済む話だったのだ。
たかが強いエゴと、強がりで、坂本も、A自身も傷つけていた。
Aを愛おしそうに見つめる青い瞳を思い出す。
(今日の目は、儚かった。嫌いな色をしてた)
きらきらとした眩しい色をしていなかった。
Aが好きな男の瞳を、自分自身で変えてしまったことに、ただ涙し、後悔する。
「私は、坂本さんが好きなだけなのに」
そんな女々しい自分が悔しくてたまらなかった。
月は儚げに女を照らしていた。
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Nattu(プロフ) - connyさん» connyサン!再度コメントありがとうございます。嬉しいです^^いつの間にか4作目で、私自身いつ終わるんだろこれ…状態なので何シーズン続くか未定です笑 これからも温かく見守っていただけると幸いです* 長きに渡るこの作品を読んで下さり誠にありがとうございます (2021年3月3日 12時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - シリーズ4個目…本当にすごいです…!続き楽しみにしてます!頑張ってください! (2021年3月3日 0時) (レス) id: 712cd20bd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年2月25日 21時