八十弍 ページ7
仕事に慣れ、数日。
「おりょうちゃーん!会いに来たぜよー!」
楽しそうに、からんからんと下駄を鳴らして歩いてくる男。
既に酒を飲んでいるようで、頬は赤く染まっていた。
(おーおー、相変わらず嬉しそうなことで)
坂本と離れた席につき、Aは他の客と酒を交わしていた。
夜の席での接客にも慣れ、Aは上位に位置していた。
「Aちゃん、入ってきた時よりも表情が随分和やかになったよなあ」
「お陰様で。皆様のお陰で楽しく働かせて貰ってます。お酒も好きだし、話すのも好きだし、天職かも!なんちゃって」
「洒落も言えるくらいに立派になって」
同じ卓の客は豪快に笑い、酒を飲んだ。
そんな時、黒服が卓に来て、Aを呼ぶ。
「Aちゃん、三番テーブルさんのところへ。まだ顔合わせしてないでしょう」
指された先は、楽しそうに笑う眼鏡の男の席。
(絶対わざとだ)
相手をしていた客に頭を下げ、指された先足を向ける。
卓についていたおりょうに目配せし、交代の合図。
席を立つおりょうに、坂本は笑顔で見送り、Aを一瞥した。
「最近入った新人の子です。常連の坂本様にお相手してもらっても宜しいでしょうか」
黒服がそう言えば、
「おりょうちゃんもええけんど、新人の子も鍛えあげちゃるきぃ!」
坂本の目は弧を描いた。
細める前の目に、一瞬挑戦的な鋭い目をしていたのをAは見逃さなかった。
土方に頼まれ、すまいるで働くことを、Aはわざと坂本に伝えなかった。
それは、坂本とのすまいるでの一連の出来事に意地を張っていた部分があったからだ。
坂本の卓につき、グラスに口をつけた。
(さあ、何を言ってくる?)
内心、どきどきとしながら相手の様子を窺っていた。
坂本はにこにこしたまま、顔を覗き込み、
「美人さんじゃのう!何ち言うんじゃあ?」
とAに問いかけた。
にこにこした顔からは、明らかに美人が来たから嬉しいと言ったような本心は微塵も感じとれない。
むしろ、
『ここで、何しゆうA』
と今すぐにでも、問いただしそうな勢いだった。
(めっちゃ怒ってそうだこれ)
漏れそうな溜息を抑え、にっこりと、
「Aと言います。以後お見知りおきを、坂本さん」
と白々しく、言葉を返した。
坂本は、ほおんと興味深そうに頷く。
「Aちゃんかあ。宜しゅうのう」
互いに、不気味な程に目を細めながら、酒を酌み交わした。
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Nattu(プロフ) - connyさん» connyサン!再度コメントありがとうございます。嬉しいです^^いつの間にか4作目で、私自身いつ終わるんだろこれ…状態なので何シーズン続くか未定です笑 これからも温かく見守っていただけると幸いです* 長きに渡るこの作品を読んで下さり誠にありがとうございます (2021年3月3日 12時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - シリーズ4個目…本当にすごいです…!続き楽しみにしてます!頑張ってください! (2021年3月3日 0時) (レス) id: 712cd20bd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年2月25日 21時