八十六 ページ11
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風がひゅうと鳴いた。
髪が揺らぐ。
目の前の鈍く光るそれの先はAに向いていた。
「今日は良い夜だね」
男はにこやかにそう言い、Aを舐めるように見た。
「店の時とは違って、随分違う格好をしてるね。それも魅力的だよ」
ぺらぺらと話す男に苛立ちを覚えながら、Aは拳を握った。
(土方さん達がこの辺りに来るまで、まだあと少しありそう)
真選組が来るまで、対処しなければならないと考え、Aは歯を食いしばる。
男の動きを見逃さまいと、じっと獲物を狩るように見つめた。
その様子に、男は残念そうに声をあげる。
「たかが水商売の女だ。刀を見て、悲鳴をあげて逃げ惑う姿を見て殺してやりたかったのに、君は違うようだ」
「残念でしたね。私は貴方を釣る為の餌でしかありませんでしたから」
「ほお。餌ねえ。餌如きがよくもあの座に勝ち上がるまで搾取したもんだ」
餌という言葉を聞き、男はくくと笑う。
それを皮切りに、ぽつぽつと話し始めた。
「俺は水商売の女が嫌なんだよ。俺ら男を金としか思っちゃあいない。女という撒き餌をし、俺らから搾取する、最低な奴らだ。そういう奴らを見ると反吐が出る」
そう言い終わると、路上に痰を吐き捨てた。
(自分勝手な理由だ)
男の言葉に、Aは苛立ちを覚えていた。
握る拳が硬くなる。
「私もそう思います」
その言葉に、そうだろうと男は明るい顔を見せた。
「ここで働く前までは」
と付け足せば、その顔も一瞬にして暗くなる。
「私は貴方を捕まえる為に、先輩達に働く上での作法や楽しみ方、様々なことを教わりました。確かに女であることの美しさに惹かれ、来ているお客様も多くいらっしゃいます。
だけど、その美しさには惹かれた先で、酒を飲みながら会話し、人と交わることの楽しさや発見を得ています。
お客様だけでなく、キャストも、お客様と話すことを楽しんでいます。
貴方が過去に何があったか存じ上げませんが、女ということはただのきっかけにしか過ぎません。
客も店員もどちらも満足した関係を築いている、それだけのことです。
私の大事な先輩達の、お客様の、この仕事を毛嫌いし、命を奪う貴方に、反吐が出ます」
Aの言葉に、男は逆上し、刀を向け、Aの胸目掛けて駆け出した。
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Nattu(プロフ) - connyさん» connyサン!再度コメントありがとうございます。嬉しいです^^いつの間にか4作目で、私自身いつ終わるんだろこれ…状態なので何シーズン続くか未定です笑 これからも温かく見守っていただけると幸いです* 長きに渡るこの作品を読んで下さり誠にありがとうございます (2021年3月3日 12時) (レス) id: 8022db4695 (このIDを非表示/違反報告)
conny(プロフ) - シリーズ4個目…本当にすごいです…!続き楽しみにしてます!頑張ってください! (2021年3月3日 0時) (レス) id: 712cd20bd6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Nattu | 作成日時:2021年2月25日 21時