退屈は猫をも殺す ページ23
扉の先は円形の広間に繋がっていた。
Aはぐるりと壁沿いを歩んで、扉と扉の間の壁に身を寄せて伏せた。
彼女が入ってきた扉は既に閉まっている。七十二時間ここで待たなくてはいけないのだろう。
はたとAは瞬いた。
「わたし……もしかしなくても暇なんじゃ?」
◆
そのとおりだった。
じっとしていることに即座に飽きたAは意味もなく駆け回ってみたり、ごろごろと転がり回ったり、トレーニングに勤しんだりしてみた。
六時間しかもたなかった。
彼女は再びべしゃりと床に伏せた。今度は篝火の間、真ん中辺りで。
「ターゲットなら一週間だって待てるのにな……」
任務でないとじっとしていることができない性分だったようだ。Aはここにきて新たな自分の欠点を発見した。
Aの耳に、そのときやっと誰かの足音が届いた。
彼女は首を巡らせてそちらを見る。
『四十四番、ヒソカ! 三次試験通過第二号、所要時間六時間十七分!』
「……」
ぐう、とAは唸った。
ヒソカが嫌いなわけではないし、暇だと言えば絶対に嬉々として
「喜ばしいけど喜べない……!」
「やあ♥」
「やあ……やあ?」
信じられないものを目にした気がして、Aは距離を保ったまま目を凝らした。
ヒソカの右肩と左脇腹に、大きく血が滲んだ裂傷がある。
受験者のレベルから言って、ヒソカに手傷を負わせるような試験はないだろうと思っていたのに。
「ああこれ? ちょっとね、去年の分の片付けついでに遊んだんだ♠」
「格下と遊ぶときにわざと怪我するの、ヒソカの悪い癖だよ」
「キミの悪い癖は一ミリの負傷も嫌がることだね♣」
「……」
ぐうの音も出ない。どうしてこう両極端しかいないのか。
「にしても遅かったね……いや、速かったのか」
「キミと比べちゃあ誰だってね……♦」
口調が軽薄なので分かりにくいが、これは呆れている顔だ。
気まずくなったAはそっぽを向いた。
「きっと退屈してるだろうと思って玩具を持ってきてあげたよ♥」
「え、ほん」
ほんと、と言い終わる前に反らせた鼻先を珍妙な刃物が回転しながら通り過ぎた。
その曲刀はさながらブーメランのようにヒソカの手元に戻る。
「面白い使い方をしてるのを見てさ……本人は大したことなかったから、代わりに
「Aだけど」
暴走しそうだが、まだ退屈よりはいいかな、と彼女は思った。
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海野(プロフ) - sakuさん» そのとおりですね。指摘ありがとうございます、記述を訂正しました。 (2019年4月9日 8時) (レス) id: 542ac62a81 (このIDを非表示/違反報告)
saku(プロフ) - すみません。ページ12で『白日の詐欺師』にも隠は効くっていうの、そもそもの能力発動条件をクリア出来てないんじゃないでしょうか?纏以外使えないという条件でしたよね?間違ってたらすみません! (2019年4月7日 12時) (レス) id: 7af2b9ccfb (このIDを非表示/違反報告)
海野(プロフ) - sakuさん» コメントありがとうございます。心外ピエロの作者と個人的に交流があるのですが、sakuさんがどちらにもコメントをくださっていてびっくりだねという話をちょうどしておりました。いいですよね。続編も続けられるよう頑張ります! (2019年2月3日 8時) (レス) id: 2600401e00 (このIDを非表示/違反報告)
saku(プロフ) - 心外ピエロ私もよんでるんですが…いいですよね!あと、更新お疲れ様です。相変わらずとても面白かったです。 (2019年2月2日 22時) (レス) id: ee214ae639 (このIDを非表示/違反報告)
海野(プロフ) - 操菜 荘椏さん» コメントありがとうございます。これからも頑張ります。 (2019年2月2日 19時) (レス) id: 2600401e00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海野 | 作成日時:2019年1月16日 13時