【H×H】ゾルディック家長女（偽）の道行

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Aは床を蹴った。

「じゃあ、三日後までにまた会おう！」
「おい待て――！」

床を蹴った脚は次の瞬間壁面を噛む。脆い煉瓦に食い込むほど力をこめて、彼女の全身を下へ送り出す。

レオリオの叫びだけではない、受験生たちのざわめきが低くなりながら遠ざかる。

彼らにしてみれば、Aが壁に垂直に立ったまま駆け下りていくように見えるだろう。実際それで間違ってはいない。

彼女は塔を駆け下りる。ただ駆けるよりは速く、それでいて墜ちるよりは遅く。
全身の関節がしなって、たわんで、重力を殺して手懐ける。
耳元で風が鳴る。それは自然法則がAに屈する音だ。

「は……はははっ！」

Aの背筋を歓喜が走り抜ける。
ただ駆ける、速く奔(はし)るという歓び。獣性のままに、本能のままに駆け抜ける、それは誰もが持つ原初の憧憬。

A＝ゾルディックの脚力をもってして駆けられない足場など、この世にはない。

彼女の喉から歓声が迸った。

壁を蹴って大跳躍。空中で華麗に前方宙返りを決めて、Aの四肢はとうとう地面を踏んだ。

ざん、という着地音。砂埃がもうもうと舞う。

視界が晴れたころ、重い音を立てて壁面に扉が開いた。


――406番、A。三次試験通過、第一号。
所要時間、五分四十二秒。

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