依頼 ページ2
ナイフが音もなく肉に潜り込んだ。
溢れ出てくる液体を見て、ナイフを握った女は口許を綻ばせる。
その刃はゆっくりと往復しながら、肉塊を緩慢に切り裂いていく。
女の力が足りないからではない。
女が愉しんでいるからだ。
「――それで」
女は肉塊に視線を落としたまま、それを見つめる男に声をかけた。
「何の御用でしょう?」
「――A=ゾルディック」
「はい。いかにもわたしはAですとも」
女は――Aはまた別種の笑みを唇に湛えた。その顔を正面から見ることができれば、それが愛想笑いだとわかっただろう。
彼女はひとつ肉片を切り終わって、もう一つを肉塊から切りだそうとしていた。
「貴殿に依頼をしたい。ソレは前金代わりだ」
「このようなものでわたしが喜ぶとでも思ったのですか?」
「……口許が緩んでいるが?」
「あらこれは失礼」
女は――Aはナイフを持っていない方の手で口許を覆った。その指先には汚れひとつない。
そのとき初めて彼女は男を見やった。透き通る氷塊のような虹彩が一瞬男を捉えて、すぐ眼前の獲物に戻る。
「詳しくお聞きしましょう」
「ある男がハンター試験に参加する。彼がライセンスを取るとこちらも困るのでな、その前に殺してもらいたい」
「かなりの難関だと聞きますけれど、その彼にはライセンスを取る実力はあるのですね」
「そう見込んでいる。達成報酬としてこれだけ払う」
Aはまた視線を投げる。その冷徹さに男と、その周囲を守る護衛はいささか怯んだようだった。
それも一瞬のこと。彼女はまた肉塊をいたぶるように吟味する。
辺りは暗く、陰惨だ。夜闇の中、ただAと男の周辺だけ明かりがともっている。
「なるほど。期日は?」
「ない」
「ハンター試験はいつ始まるのですか?」
「明日の朝、ザバン市で」
「――は?」
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海野(プロフ) - sakuさん» そのとおりですね。指摘ありがとうございます、記述を訂正しました。 (2019年4月9日 8時) (レス) id: 542ac62a81 (このIDを非表示/違反報告)
saku(プロフ) - すみません。ページ12で『白日の詐欺師』にも隠は効くっていうの、そもそもの能力発動条件をクリア出来てないんじゃないでしょうか?纏以外使えないという条件でしたよね?間違ってたらすみません! (2019年4月7日 12時) (レス) id: 7af2b9ccfb (このIDを非表示/違反報告)
海野(プロフ) - sakuさん» コメントありがとうございます。心外ピエロの作者と個人的に交流があるのですが、sakuさんがどちらにもコメントをくださっていてびっくりだねという話をちょうどしておりました。いいですよね。続編も続けられるよう頑張ります! (2019年2月3日 8時) (レス) id: 2600401e00 (このIDを非表示/違反報告)
saku(プロフ) - 心外ピエロ私もよんでるんですが…いいですよね!あと、更新お疲れ様です。相変わらずとても面白かったです。 (2019年2月2日 22時) (レス) id: ee214ae639 (このIDを非表示/違反報告)
海野(プロフ) - 操菜 荘椏さん» コメントありがとうございます。これからも頑張ります。 (2019年2月2日 19時) (レス) id: 2600401e00 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海野 | 作成日時:2019年1月16日 13時