卯ノ月ノ事 ページ20
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神威
ーーおかえりなさい、なんて普段の生活で何度も言われた事はあったけど、Aがこんな暗い顔してそれを言ったのは初めてだろう。
Aを見てると、さっきの占い師との会話が蘇りそうで、柄にもなく視線を逸らした。
俺らしさを取り戻したくて外に出たのに、逆効果だったかもしれない。
「……」
「……」
部屋に沈黙が落ちる。
耐えられない訳じゃない。寧ろどうでもいい奴なら、そっちの方が楽なくらいだ。…でも、今日の俺は違った。
Aに、何でもいいから振るべきだと本能がそう言っていた。
「Aの、家族はどんな?」
「……え??」
「……」
振ってしまってから、軽く後悔はした。パッと浮かんだのが、昨日喧嘩したばかりの話題で、咄嗟にそれが口をついて出た。
まるで当て付けのようなものだ。…どうやら、少なくともAはそう感じたらしく、顔をフイと逸らす。
「……嫌味ですか。別に、話しても構いませんけど。……私には、知っての通り他の夜兎にはない、姓があります」
もっと拒むか嫌がるかと思っていたら、案外あっさりと口を開くA。けれどその口調は淡々とし過ぎていて、まるで他人事のようだった。
「私、捨てられたんです。生活が苦しかったのか、理由なんて知る由もないですけど」
「わざわざこんな星に?」
「理由なんて知りません。でも、そのお陰で私は近藤さん達に出逢うことが出来ました」
既にAの瞳は俺などでは無い、もっと遠くーー恐らく江戸の、真選組を見据えている。
だから、その口調も、いつの間にか温かみと人間味を帯びていた。本当に、この国の奴らは、不思議なのばかりだ。
「…春の初め、卯の月にあの人たちに拾って貰った。だから私は、卯月Aなんです」
そこで、漸くAが口角を上げて、微笑む。いつものように、ごく自然に。
…それを見た途端、俺の中に湧き上がる何か。何度も蘇る、占い師の言葉。
「(……駄目だな、やっぱり)」
違う、そんな筈はない、と何度も打ち消していた。
「(…Aには、笑ってて貰わないと)」
しかしそれでも、本心には抗えないらしい。
「(…Aが、好きだ)」
否定していた言葉が、今はストンと胸に落ちる。インチキだなんだと言っていたけれど、占い師もあまり馬鹿には出来ないな、とそう思った。
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頑張ってください - ああああああああ久々に読んだら進んでてまた神威熱が… (2020年1月6日 1時) (レス) id: ac6d87c707 (このIDを非表示/違反報告)
自己満者 - 京篇凄い良くて、泣いちゃいました(笑)更新頑張って下さい! (2019年8月17日 15時) (レス) id: c6b3012422 (このIDを非表示/違反報告)
陽奈(プロフ) - むくさん» コメントありがとうございます。時間をかけて丁寧に書いたシーンなのでそう言っていただけるととても光栄です!これからもよろしくお願い致します。 (2019年5月26日 23時) (レス) id: 765bdcb728 (このIDを非表示/違反報告)
むく(プロフ) - 求婚シーンめっちゃ好きです〜!! (2019年5月25日 23時) (レス) id: 3bb4d6b7d5 (このIDを非表示/違反報告)
陽奈(プロフ) - 匿名さん» 初めまして!そう言っていただけてとても嬉しいです。神威くんのイケメン台詞は割と心の声の方が潜んでいたりします笑これからもよろしくお願いします!コメントありがとうございました! (2019年4月29日 20時) (レス) id: d60993068d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:陽奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/ryosukehar1/
作成日時:2019年1月8日 17時