一松ｇｉｒｌってトリップできたっけ？【一松】

ー３５ー ページ38

………あのキス、どういう意味だったんだろう。


はぁ、と日当たりのいい縁側に座って溜息を吐く。

つい先日、一松とキスしてしまった。
高校生とキス……うわ、地面だけじゃなくても犯罪だわ。

あれから顔を合わせづらくなって私から避けているけど、反応を見るにあんまり気にしていないように見える。


色々悩んでるのも、私だけなのかなー。


「ね、どう思う？エスパーニャンコ」


そう言って一緒に日向ぼっこしていたエスパーニャンコを見下ろすと、眠たそうに目を開けてまた寝に入る。
猫に聞いてもダメか…。

いくらエスパーニャンコだからといって、あれは一時だけの話…今はきっとわからないだろう。


「…悩んでも、無駄なんだけどね」


結局最後には、元の世界に帰っちゃうし。

今親しくなっても仕方がない。離れていって、もしかしたら記憶もなくして。


一緒に“好き”って気持ちも、消えてくれないかな。


「人魚姫が羨ましいよ」


泡と一緒に恋心も消えたでしょ？

だったら私も人魚姫になりたいな。


そんなメルヘンなことを考えていると、いつのまにかエスパーニャンコはいなくなっていた。


溜息を吐いて空を見上げようと上を向けば、視界に落ちる影。


「……一松」
「何してんの、あんた」


何って…日向ぼっこ。



「人魚姫が羨ましいって、何？」
「…聞いてたの？恥ずかしいな」
「あんたの恥ずかしいところなんて見飽きてるよ。遊園地で散々泣いてたでしょ」
「おっしゃる通りです…」


あれは大人気なかったな〜。


申し訳ない…と苦笑いを浮かべていると、隣へ腰掛けた一松が顔を覗き込んできた。


「わかった。後悔してるんでしょ」
「…なにを？」
「俺のこと好きになったこと」


………まさか。


そんなわけないじゃん、と笑えば、一松はどうだか、と肩をすくめた。

後悔…か。
してないとも言い切れないかな。


「人魚姫って、最後泡になっちゃうけど…恋心も一緒に消えちゃったでしょ？それが、羨ましいの」
「…好きで仕方ないってこと？」
「ん、まぁ。そうとも言うね」



好きで好きで、仕方がないよ。

明日いなくなったらって考えるだけで胸が痛くなる。


それなのに、ね。運命って残酷。

そもそも私たち、同じ世界に生きていない。



「同じ時は過ごせても、同じ場所にいないんじゃ意味がないわ」
「難しい話だね。そんな小難しいことで悩んでたんだ？」
「そうでもしないと…」


…不安。


いつか元の世界に帰った時に、あなたのことすっぱり忘れられるように。

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