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何が、どう、危ないのか。
伊沢さんが、こうする事がさも当然のようにずんずんと足を進めるものだから。
よくわからないまま改札を抜け、聞けもしないまま駅を出た。
手のひらに伝わる伊沢さんの熱だけを感じて、見慣れない道を歩く。
心臓はずっとドキドキしていて、顔もずっと熱い。
それを知ってか知らずか、伊沢さんは時折こちらを見て微笑んでくるものだから、ひたすら不整脈の連続で思考もままならなかった。
『あの、もう、だいぶ経ちましたし…そろそろ、その、手を離してもらっても…』
長い信号待ちで、やっとの事で口から言葉が出たものの。
「ちょっとってさ、個人差あるもんだから。俺のちょっとは、まだ先なんだよ。悪いね」
悪びれることもなくそう言って、また青になった信号を見て横断歩道を渡る。
体感では随分長い間そうしていた気がするけれど、既に諦めの境地にいるような気さえし始めた時、ついにとある大きなビルへと足を踏み入れた。
『あの…ここは？』
「まぁまぁまぁ」
エレベーターに乗り込んでも、伊沢さんの右手と私の左手は依然繋がったまま。
質問にもはぐらかされ続けて、ついにエレベーターが止まって扉が開いた。
目の前には、保護シートの付いたガラス張りの間口。
手は離さずに、器用にカバンの中を漁り鍵を開ける伊沢さんをただ呆然と見つめていると。
カチャリと音がして開かれたドアの向こうに、何もない空間があり、そこはまだ真新しい部屋の匂いがした。
そっと手を引かれて、扉の中へ促される。
「ここが我らの新しい城ですよ、姫君」
『え？ここ、って…？』
「んふふふ、言ってただろ？近々引っ越すって。ここが、新しい、オフィス」
『え？！こ、ここがそうなんですか？』
「そーいうこと！ど？驚いた？」
今のオフィスより随分大きく見える室内を、ぐるりと見渡して感動が押し寄せる。
『で、でもどうして…私を、ここに？』
「一番に連れてきたかったんだよ」
『え？』
「今の、俺の、集大成になる場所。見て欲しかったから」
『そ…れは、どう、いう…』
「こんだけして、まだわかんない？」
間近に迫る伊沢さんの瞳に吸い込まれるように、目が離せなくなって。
時が、止まった気がした。
「好きなんだよ、Aが」
私の思いを遥かに超えて。
「俺の快進撃、一番近くで見ててくんない？」
欲しかった解答はもう、目の前にあった。
「手繋いで連れてくから。今みたいに、ずっと」
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作者名：SEN | 作成日時：2021年10月16日 0時
