125話 ページ26
聖side
人は予期せぬ最悪な事態に遭遇すると、考える為の冷静さを欠いてしまい未知の恐怖に押し潰されてしまう物だ。
押し潰されてしまえば最後、混乱状態に陥り、成す術すら思いつかないまま人間の生存本能だけが働き、人によっては生存本能だけを頼りに思いもよらない行動をする。
その結果、命を落としてしまう。
だからこそ、今まで培ってきた経験がここで役立つんだ。
他の誰よりもリクトルが少ない、ギアもただ植物を生やすだけの力、その上レイヴンすらロクに扱えずに、周りの助けがないと魔隆を倒せない。
そんな最弱の僕が常に土壇場の状況を潜り抜けてこれた理由……
それは、生きる為の生存技術。
生きる為に僕はどんな手でも使ってきた。どんなに大切なものも切り捨ててきた。よく観察して、かつタイミングを見計らって。
いつだって死と隣合わせの状況の中、僕はその知識と技術を使って生き延びてきた。
対人は初めてだが、今この状況を打破するには僕の観察眼と経験が重要になってくる。
死の恐怖を感じるのはこれで何度目だろう。いつまで経ってもこの恐怖には慣れないものだ。
いや、慣れるなんてそんな甘い事、彼が許してくれるはずもない。この贖罪は一生背負わなければならないもの。
僕はあの時からずっと、ブレイダーという罪の十字架に縛りつけられてるのだから。
トイレの入り口からそっと顔を出し、テロリスト達が居ないか辺りを見回す。
非常電源の光である赤い光が暗闇と化したショッピングモールの中を淡く照らす。
さっきの悲鳴と爆発の轟音が嘘のように、その場は静寂に包まれている。
辺りは暗いから確かとは言えないが、テロリストのいる気配も、足音も聞こえない。
恐らくだけど、テロが起こってまだ10分は経ってない。
テロリスト達の人数にもよるが、テロが発生して数分も経たないうちにここら辺の客が一斉に居なくなったとするなら、きっと大人数の犯行だ。それも、突発的ではなく前から計画していた。
となると、その内ここにも見回りが来る。移動するのなら、音のないこのタイミングしか無い。
「あいつらの来る気配は無い。今のうちに動こう」
あいつらに感づかれぬよう、振り向きざまに小声でそういうと、岳斗君は首を縦に振り、僕の側まで忍び足でやってくる。
2人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ