liqueur:7 ページ8
ポアロには二、三回足を運んでいた。
最初こそただの思い付きだったから行くのを躊躇した。
でも時間が経つほどポアロの料理が食べたいから、家から近い美味しいお店だから、雰囲気がよかったから。
そんな言い訳がぽんぽん浮かんだ。
話してみたい。話すのが怖い。思い出したい。思い出したくない。
ぐちゃぐちゃで固まらない思考。
自分でもどうしたいのかわからなかった。
でも変に強気になったある日。仕事帰りにポアロの前を通ってみた。
そしたらそのまま惹き付けられ気づけば扉のベルが鳴っていた。
結局いろんな言い訳を思いついたところで私は降谷くんと話してみたいのだろうか。
自分のことなのにわからない。
けれどその日、悩みの種である降谷くんの姿はなかった。
代わりに初めて来たときにはいなかった女性の店員さんがいて、なんとなく拍子抜けした。
今までポアロへ足が遠のいて、わりと悩んで、きっかけはどうであれようやくポアロへ来てみたら降谷くんはいなかった。
案外こんなもんか。こんなもんだよね。そう思った途端何かが軽くなった。
それから運試しみたいな感覚で仕事が早く終わった帰りはポアロへ行った。
会えなかったら何も変わらない。今まで通りの日常。
会えたらのことは考えなかった。
今日もいない。今日も会わなかった。やっぱり料理が美味しい。
そんな変哲もない日々を送っていたら
「お待たせしました」
とうとう運試しの当たりを引いた。
いつかは会うとわかっていたはずなのに彼を見つけた瞬間から心臓が痛いほど早く鳴りだした。
「話したいことがあるのでとりあえず僕の車に乗ってください」
閉め作業をするから少し待っててくれと外で待っている間、何を、何から、どうすれば、と頭と心臓が破裂しそうだった。
永遠と閉め作業しててくれ…なんて馬鹿なことを願ったが、当たり前に叶うはずもなく。
車が置いてある場所までさっさと歩きだした後ろ姿に黙ってついていく。
今この瞬間も心臓が痛い。緊張で吐きそう。誰か助けて。
「これです」
そう言われ地面を追っていた視線を上げるとスポーツカーのような車の助手席を開けている彼。
「乗ってください」
「し、失礼します…」
上ずった声。
ただでさえ緊張してるのになんか高そうな車のせいで体も頭もガチガチだ。
ダサい…恥ずかしい…もう色々と無理。
そんな私などお構い無しに彼は車を発進させた。
176人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「名探偵コナン」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
理那(プロフ) - ありがとうございました。本当に素敵なお話でした。 (2020年7月7日 16時) (レス) id: db0db57d74 (このIDを非表示/違反報告)
かものはし子(プロフ) - お萩さん» コメントありがとうございます(*^^*)頑張っていきます! (2019年5月17日 22時) (レス) id: e4c7a737a2 (このIDを非表示/違反報告)
お萩 - わー!とっても素敵ですね!ふるやさんこわーい「棒」 これからも頑張ってください (2019年5月17日 20時) (レス) id: c0a94bdd1a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:かものはし子 | 作成日時:2019年5月16日 3時