You.05 ページ8
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「はい」
ゴトン と鈍い音を立てて、コンビニのビニール袋に入った缶がテーブルに置かれる。
それを覗いて
「お」
という声が上がる。
「Aもこれ好きなの?分かるね」
「ううん、一静の好みかなって思って買ってきた。すごいでしょ」
一静は驚いた顔をしたあと、ニヤリ、“うん、スゴイ”と笑った。
「それでさ……と、…花巻は相変わらずだった?」
初めはぐだくだと世間話や互いの近況を語り合った。高校卒業後は私と徹以外みんな違う大学へ進学し、最後に会ったのは大学一年の夏。ずいぶんと久しぶりの再会だった。
世間話も一段落したところで近場の話に移る。バレー部のみんなのことだ。
徹のことをコソコソと嗅ぎ回るつもりもないし、正直知りたくないというのが本音なんだけれども。
だけど、心と頭はそう上手くリンクしてくれるわけでもなくて。
無意識に、徹のことを聞きかけてしまった。
「ん?花巻?」
ちーかまをモグモグしながら一静が不思議そうな顔をする。そりゃそうだ。わたしと花巻はそれほど仲が良かったわけでもない。
少しわたしを見つめた後、一静は「ねぇ、俺なんのために今日誘ったと思ってるの」と。
「俺の前でカッコつけてもしょうがないでしょ。及川の前でだって…ほんとはもっとワガママになっても良かったくらいなのに」
「…ごめん」
「ごめんって…やっぱり甘えるつもりはないんだ?」
「だってどうしたらいいか分からない…
徹の前で思ったこと言ったら止まらなくなりそうだし…
重いなって思われたくないの」
「そんなことアイツは思わないと思うけど」
「分かってる…けど、最初に重くない女で頑張ってきたから、今さらそれが…抜けなくて……」
空になったビールの缶を目の前でフラフラさせながら、低い声で呟く。
一静がどんな顔をしているのかは分からない。
怖いわけじゃない。でも決まりが悪い。
一静には弱音をはけるのに、一番大事なひとの前では仮面…
徹が離れていっていることを気付いていながら、問いただすことも繋ぎ止めようとすることもせず、できず
離れていったあとも改めようともしない
これじゃあ戻ってこない
あの幸せな日々も、優しい笑顔も……私のすべてだった、あのぬくもりも
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radio-co.(プロフ) - 励ましのコメントありがとうございます!文庫化なんて畏れ多いです汗 言葉を大事にしすぎて一言一言が重苦しくなるのが欠点でして……。もう少しラフに書けるといいなー書きたいなーと思っています笑 これからも是非応援宜しくお願いします(/\)\(^o^)/ (2017年12月29日 16時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
radio-co.(プロフ) - どっどっどうもありがとうございます!(#^.^#) 文章力とストーリーの両方を誉めて頂けるなんて、これほど嬉しいことはありません!あやせさんのこの言葉を励みに更新頑張っていきますので、これからも温かく見守ってくださいね。 (2017年11月29日 17時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
あやせ(プロフ) - あっあっあの、好きです(語彙力) 引き込まれるストーリーと綺麗で丁寧な文章表現、本当にすごいなと思いました。これからも応援させていただきます…!! 更新楽しみにしてます〜(*^^*) (2017年11月22日 16時) (レス) id: a236a20ef8 (このIDを非表示/違反報告)
radio-co.(プロフ) - ユラさん» 大変な誉め言葉をありがとうございます!汗 更新が不定期で申し訳ありません。ここから皆の恋愛が動いていきますので、これからもどうぞよろしくお願いしますね。 (2017年10月2日 16時) (レス) id: ee8f50fb78 (このIDを非表示/違反報告)
ユラ(プロフ) - 凄く大人っぽいのに読みやすくて、あっという間に夢中でした!やばいこれ超良作じゃん!とか言って一人で騒いでます笑。及川くん達のこれからがとても気になるので、更新、お願いします!! (2017年9月26日 0時) (レス) id: 9a45404af6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:phobia | 作成日時:2017年2月18日 10時