*一目惚れたァねぇ…… ページ7
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着替え終わった俺は、わざわざ来てもらうのもと思い、襖を開けると、こちらに背を向けて忙しそうに動く女が。
声をかけようと、口を開いた時、お盆を持って振り返った女は、心配そうな表情を浮かべた。
「声、かけてくだされば良かったのに……」
「いや、なんだか悪ぃと思ってな。
洋服、すまねぇな、洗ってもらっちって」
「いえ、気にしないでください。
その着物は、そこに置いてもらって構いませんから、朝ごはん、食べていってください。」
そう言って、並べられていく朝ごはん。さすが、夜兎族の知り合いを持っているのか、量がハンパない程に盛られていた。
「何から何まですまねぇ」
「いえ、好きにやってることなので……
召し上がってください。味は……自信無いですけどね」
困ったように笑みを浮かべた女は、さっきまで俺がいた部屋に入り、着物やら布団やらを持ってくると、洗濯を始めた。
「いただきます」
きちんと呟いて、箸を取ろうとした時、左側に違和感を感じ目をやると、いつもハマっているはずの義手が無くなっていた。と同時に、慌てたように義手を持って現れた。
「すみません、これ、忘れてました」
「いや、助かった。」
義手を受け取り、左にはめると、今度こそと山盛りに盛られたお茶碗片手に、おかずに手を伸ばした。
典型的な和食。焼き鮭に卵焼き、青菜のおひたしからワカメと豆腐の味噌汁、そしてご飯のてっぺんに乗っかった梅干し。
「……うめぇ……」
甘すぎもなく辛すぎもない卵焼きは、どうやらオレの胃袋を掴んだらしく、箸が止まらなかった。
……いや、ただお腹が空いていただけか?
さっきよりも減ったお茶碗片手に、それにしても……と考えた。
さっきから、忙しそうに動いている女は、一体誰だ……いや、その前によく表情がコロコロと……
お味噌汁を飲みながら、その姿に目をやり続けていると、視線を感じたのか振り返って首を傾げたその姿に、なぜか俺は目を見開き手に力が入った。
「どう、しました?もしかして、まだ食べる、とか?それか、お口に合いませんでした?作り直します?」
「……いや、んなこたァねぇさ。美味いぜ」
聞きたいことがあったのに、それしか出てこなかった俺は、そうですかと少し嬉しそうに微笑んだ女から、目を離せなかった。
……まさか、
「一目惚れ……」
なわけ、ねぇか。
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rikohuku0428(プロフ) - 続きのパスワードが知りたいです!面白いのでぜひお願いします! (2020年11月23日 0時) (レス) id: 4dacac16ea (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:どこかのムスメ | 作成日時:2018年8月23日 12時