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わからないことがあると、すぐに逃げたくなる癖は、どうにかしなければと思う。
「体育……」
屋上から見た体操服の同級生は豆粒みたいにちっちゃく見えて。
馴染めない、なんて悩んでることが馬鹿みたいに思えてなんだかつまらない。
耳に突っ込んだままのイヤホンを、抜く気にもなれなくて、
大音量で流れるその歌詞を大声で叫びたい衝動に駆られた。そんな馬鹿なことはしないけれど。
「…、」
耳元で流れるアルファベットの羅列に混じって声がする。
「…ねぇ、」
「っ、はい」
「音漏れ、どうにかならないの」
「あっ、…、ごめん、なさい」
びっくりした。特進クラスの月島くんが、なんで授業中にここにいるんだろう。
すらりと伸びた背の彼の頭のてっぺんと派手なスニーカーに彩られたつま先とを交互に見つめて。
やっと状況を理解してから、慌てて音量をさげる。
「…月島くん、あの、授業は」
「Aさんもサボってるデショ。自分を棚に上げるの、どうかと思うけど」
はぁ、と吐き出されたかれのため息は、心臓に悪い。どうせ自習時間だから抜けてきただけだと言う彼の表情は、全く変わりがない。
「…あれ、私の名前」
教えてないのに、と首を傾げる。
「ああ、有名だから」
「…わたしが?」
「Aさんも僕にそう言っただろ」
言ったけど。それは嘘でもなんでもなくて、みんながかっこいいって噂するから有名なだけだ。
私がうわさされる理由なんて見当たらなくて、瞬きを繰り返す。
嫌な噂だったらどうしようと、キリキリ胃が痛んだ。
嫌だな、と思う。
この妙な沈黙が、やっぱり、いくつになっても、ずっと嫌いだ。
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作者名:柚子 | 作成日時:2014年8月20日 21時