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とくにきっかけがあった訳ではなかった。
目が合った
距離が近かった
ほんの少しだけドキドキした
「…してみる?」
吐息だけで呟かれた、好奇心のような、願望ですらなかったその言葉に私は酷く混乱した。
なんで急にこんなことができるのだろうか、なんて。
(でも、この男ならあり得るなぁ…)
人を虐めるのが生きがいみたいなそんな最低男を、そのままの勢いで睨みつける。
「…嫌だよ月島くん、 …遊びでするようなことじゃないでしょ」
「本当に嫌だ?」
「っ、」
息が、つまった。
彼のそのスラリとした横顔を、
中身とは違って綺麗な色の瞳を、
少し見つめただけで、ほんの一瞬、嫌じゃないって思ってしまった。
「嫌じゃないでしょ?」
「っ、いやだ…」
ずるいずるいずるい、
そんな声音で言われて、私が断れる訳が無いって知っているくせに。
グッと顎を掴まれて、急に接近する。
月島くんはいつも通りの意地悪な声で、小さく囁いた。
「だってAは…〜、」
唇が重なった。
触れるだけのキスをした。
思えばこの時から、私と月島くんの関係はごちゃごちゃに崩れてしまったのかもしれない。
「…月島くんは、狡いよ」
「うん、知ってる」
彼はそれだけ言うと無骨なヘッドホンを身につけて教室を出て行った。
まるでままごとみたいな、
幼稚で笑いたくなるような、
つまらないごっこ遊び。
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作者名:柚子 | 作成日時:2014年8月20日 21時