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「これが、私が誰にも話してこなかった『最初の記憶』の話と、君たちには端折って話した部分の詳細だよ」
そう云って、湯気の立つ紅茶を一口飲んだ。
「私はね、名探偵。君という存在をずっと知っていた。でも、顔も、名前も、性格も、住所も、君という情報を何もかも知らなかった。君を見て初めて、私がずっと探していたのは君だったんだと気づいた」
ふくろうは目を閉じて、遠目に乱歩の姿を見た時のことを思い出した。
目の前で起きた殺人事件。目撃者と名乗り出れば、容疑者として拘束された日。
ベンチに犯人と、無関係の人間と並びながら、遺体を調べ、刑事と話していた姿を見たあの瞬間の高揚感。
ようやく出会えたという感動。
元の世界に帰り、記憶を取り戻し、名前を思い出すことができるかもしれないという喜び。
そして、それが教えられるのは、まだ先だという落胆。
それでも、その何れ訪れる『先』の希望を求めて、待ち続けた。
それがようやくやって来た。
沸き上がる感情を抑えながら、ふくろうは目を開いて乱歩を見つめる。
「だからね、君が、私について全部推理してくれるだろうということは、ずっと、知っていたし、君がすべてに気づいて、自分の能力の使い方を忘れる私の前に来て、全て話してくれるこの日を待っていた。……これで、必要な情報は、全て揃ったかい?」
ふくろうが問いかけると、翡翠色の瞳がゆっくりと閉じられた。
「揃った」
「良かった」
ふくろうは嬉しそうに笑い、乱歩は複雑そうに俯く。
俯いたまま、拗ねた子供の用にそっぽを向きながら、乱歩は問いかける。
「知りたい?」
「ああ。君が気づいた私のことについて」
ふくろうが頷くと、やっぱり複雑そうにしながら、乱歩は口を開く。
「君がこの店にかけた異能力は、すべて君がこの建物内にいるときにのみ発動するものだ。君が致命傷を受けても死なない。君が怪我をすれば瞬く間に治る。君の許可がなければ、この店の中から一冊の本も持ち出す気が起きない。君が、古書堂から出ると店の扉にカギがかけられ、何人も開けることはできない。君自身にかけた異能力は、10m以内にいる自分を異能力者だと認識している人間は能力の使い方を忘れる。君が特務課に管理を任される限り、君から『白紙の文学書』を奪うことはできない」
「正解。だがあともう一つ」
そう云いながら、人差し指を立てる。
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作者名:あき | 作者ホームページ:http://http://uranai.nosv.org/u.php/hp/fallHP/
作成日時:2021年4月24日 1時