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side沖田
携帯を閉じた後のことなら、
今、きちんとはっきり思い出せる。
突然目覚めたみたいに意識がはっきりして、
汗だくで走ってくる近藤さんが見えて、
でも、間に合わなかった。
涙が出ない自分にも、気づかなかった。
悲しい時には涙が出るってことすら、忘れてた。
悲しくなかったわけじゃないのに、
なぜだか俺の視界はずっとはっきり。
近藤さんの涙を見て、
ようやく、涙、というものが何なのか思い出して、
けどやっぱり冷静なまま。
魂を病院に置いたまま、
アパートの近くのマックで、俺の今の体みたいに空っぽのマックシェイクを、
ひたすら吸い続ける。
近藤さんは先に帰ってしまった。
気づかいなんだと思う。
そんな気遣いなんていりやせんぜ、と言いたかったけど、
拒めなかった。
悲しいはずなのに感情たちはどこかへ置いてきてしまった。
ここには魂も感情も、マックシェイクもない。
なのに、というか、だから動けない。
そろそろ帰らないと。
けど、動けない。
ずっと店内に居座ってちゃ怒られる。
___「ずっと居座ってたら追い出されるよ?」
見慣れた制服で、マックシェイクとバニラアイスを両手に持って立っていた、A。
「今度ちゃんとお金返してね、じゃ。」
マックシェイクを俺の眼の前に置いて、
当たり前のように去っていく。
そうか、こいつがいる世界でも、時間は経っていたんだ。
俺たちがあんな状況にいる中でも、こいつは当たり前のように部活して、風呂入って寝て、また部活してたのか。
『___おい。』
腹が立ちそうなもんなのに、立たない。
むしろ___
『座れ、っつったらどうすんでィ。』
すごく、安心する。
「……まあ外じゃアイス溶けるし。
暑いし、疲れたし、店内でお召し上がりになろうかな。」
『……一口くれィ。』
「は?あんたにはマックシェイク買ってあげたでしょうが。」
”は?やだよこれ私のだもん。”
あの病院で、どんなに重い空気を吸って出てきても、
それを引きずり続けても、こいつの周りの空気は、
チャーハン食って喧嘩した時と同じだ。
あの時はむかついたこの顔も、
今は見ると目が熱い。
「わ、もう溶けそう。」
こいつはマックシェイクと一緒に、
感情も、魂も持ってきてくれた。
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作者名:ニコ | 作成日時:2020年4月3日 10時