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いつも通りの動作を繰り返して病室につくと、看護師が何度も出入りしていた。病室は個室だ。ということは。
足を早めて中に入ると消毒の匂いが濃く、機械の増えた室内。そして、力なく横たわる坂田くん。点滴は数を増していた。
「坂田くん……」
「あ、ぁ。A…?」
「うん。大丈夫?」
「大丈夫に、見える…?」
「全然」
何かを言いかけた看護師さんは、結局何も言わずに部屋を出ていった。
あまり話さないで、だとかそっとして、なんて言っても無駄だと思ったんだろう。たとえ点滴や機械が増えようが、私たちはいつも通り軽口を叩くのみだ。それが、私たちの死ぬまでしたいことなの。誰も、邪魔させない。
「……あと、2日だね」
「……やな」
「明日死にそうな勢いだけど」
「ははっ…そうかも」
そっと握った手は細く、冷たい。温もりが損なわれていく。顔も蒼白く、死に際の人そのものだ。
「悲しいね、なんか」
「……遅すぎやろ」
「…うん」
「……A」
「……悲しいよ、私」
淡々と言うと坂田くんは泣きそうな顔になった。言わんとってって、現実は見たくないって、そう訴えているように思えた。実際、そうだったのかもしれない。
実感がやっと湧いたって感じだ。もしかしたら私は、そんなこと言って結局死なないんでしょって思ってたのかもしれない。現実をうまく受け止められなかったんだ、きっと。
でも、気づくのが遅すぎた。残された時間は2日。もしかしたらもう1日もないかも。
「…A、泣かんとって」
「…泣いてないし」
「泣いてるやんか、もう」
「うるさい。だって、坂田くん」
ゆっくりとした動作で、坂田くんは私の涙を拭うためだけに手を持ち上げた。少し震えていた。もう、動くことすら難しいんだ。
ぼやけた視界の中で、それでも坂田くんは笑っていた。泣かないでって、笑ってって、ずっとずっと静かに泣く私に言い続けていた。
心地良い彼の声とともに、私は眠りについた。
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あゆ(プロフ) - どのお話も切なくて、思わず1話読み終わる事に泣いてました…w最高でした!ありがとうございます…(´;ω;`) (2019年7月25日 21時) (レス) id: e76134e0bd (このIDを非表示/違反報告)
夏々 - まふくん……悲しすぎる(;_;) (2018年11月22日 23時) (レス) id: ca7b93074f (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり - かのこゆりです!天使病のお話を書かせていただきました。お褒めの言葉、ありがとうございます!緊張していたのもあり、正直あまり自信がなかったのですが、そういっていただけて嬉しいです。読んでくださり、本当にありがとうございました! (2018年11月22日 4時) (レス) id: 459f75f8c6 (このIDを非表示/違反報告)
sera(プロフ) - ぬこさん» 坂田さんの小説の作者、seraです。私の書いたものが良かった、と書いてくださったのでコメント返しさせて頂きます。そう言ってくださりありがとうございます。これからも私含め、他の作者様のこと、応援よろしくお願い致します! (2018年11月21日 21時) (レス) id: 28f01b04a4 (このIDを非表示/違反報告)
ぬこ - 凄く感動しました。特に、坂田さんの入院(?)のやつと、まふまふさんの天使病のやつです。めっちゃ泣きました!これからも頑張ってください! (2018年11月21日 21時) (レス) id: 4fbcbbbe7e (このIDを非表示/違反報告)
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