【坂田】愛しいお別れ/sera ページ7
彼氏の余命が一週間、だなんて告げられてからもう2日が経った。
だからといって、別に特別なことはない。いつも通り病室に行き、丸一日意味もない会話を続けるだけだ。私たちに、小説や映画のような展開はありえない。
花瓶に水を足しながらそんなことを考えた。
ベッドの横にあるパイプ椅子に座ると、坂田くんは人懐っこい笑みで話し始めた。
「あと5日やな」
「だね」
「寂しい?」
「って思ってほしい?なんなら自 殺してやろうか」
「思わんくてええよ。好きなように生きて〜」
ポンポン、と頭を撫でそう言った。
坂田くんは余命宣告…いや、助からないと聞いたときだったか。その時に彼はものすごく真剣な顔で「俺の分まで生きてな」なんて言っていた。「笑顔で俺を見送ってや」とも言っていた。すごく変だと思った。
余命宣告をされた時坂田くんは「はよ入院生活とお別れしたい!」とも言っていたっけ。どこまでも単純で幸せな人だと思う。
「……彼氏のいない世界でどう生きていけばいいんだ〜」
「なんやそれ。ほんまに思ってる?」
「ううん、全然。だってまだやりたい事あるし」
「うわっ、腹立つぅ〜」
笑いながら手を重ねる。じんわりと温もりが伝わってくる。この温もりもあと5日。
普通の人だったら泣き叫びこれからの孤独を恐れ別れたりするんだろう。でも、私は嫌いだ、そういうの。
この世界は終わりと始まりを繰り返すもの。
そんなの、生まれたときからわかっていること。今更その現実を悲観するのも馬鹿馬鹿しい。
つくづく自分は冷めたやつだな、と思った。
「……A、好き」
「私も」
「ちゃんと言って」
「……大好きだよ、ばーか」
「……俺も。愛してる」
きっと薄情な私はいずれ坂田くんのことなんか綺麗さっぱり忘れて、新しい男を連れてるんだろうな。でも、それを頭で理解してもなお坂田くんの愛に笑顔になってしまうんだから、単純なやつだよ。
「……あ、俺メロンパン食べたい」
「……今の空気でそれ言いますか」
「だって食べたいんやもん」
「はいはい、買ってきますよ」
財布を持って立ち上がると、坂田くんは笑顔で「ばいばい」と言って手を振った。すぐ戻ってくるのに。
でも、このばいばいも残り少ないんだね。
64人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あゆ(プロフ) - どのお話も切なくて、思わず1話読み終わる事に泣いてました…w最高でした!ありがとうございます…(´;ω;`) (2019年7月25日 21時) (レス) id: e76134e0bd (このIDを非表示/違反報告)
夏々 - まふくん……悲しすぎる(;_;) (2018年11月22日 23時) (レス) id: ca7b93074f (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり - かのこゆりです!天使病のお話を書かせていただきました。お褒めの言葉、ありがとうございます!緊張していたのもあり、正直あまり自信がなかったのですが、そういっていただけて嬉しいです。読んでくださり、本当にありがとうございました! (2018年11月22日 4時) (レス) id: 459f75f8c6 (このIDを非表示/違反報告)
sera(プロフ) - ぬこさん» 坂田さんの小説の作者、seraです。私の書いたものが良かった、と書いてくださったのでコメント返しさせて頂きます。そう言ってくださりありがとうございます。これからも私含め、他の作者様のこと、応援よろしくお願い致します! (2018年11月21日 21時) (レス) id: 28f01b04a4 (このIDを非表示/違反報告)
ぬこ - 凄く感動しました。特に、坂田さんの入院(?)のやつと、まふまふさんの天使病のやつです。めっちゃ泣きました!これからも頑張ってください! (2018年11月21日 21時) (レス) id: 4fbcbbbe7e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ