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頭に巻かれた包帯が、さっきより朱く染まっているような気がした。
先生は、冷静に淡々と事実を述べていく。
「脳に障害が残る可能性があります。」
「え…。障害、って…。」
「まだ、どのような症状が出るかは分かりません。記憶喪失や、昏睡状態に陥ってしまう可能性も少なくありません。」
キオクソウシツ…。
コンスイジョウタイ…。
知っているはずの単語なのに。
信じられない。
本当に、Aが?
本当に、一、二時間前まで笑顔でおしゃべりしてたんだよ!?
なんで?
ねえ、A。
早く、元気になってよ。
記憶がなくなっても、目が覚めなくても、僕は命の限りAと一緒にいるから。
また、あの笑顔で笑ってよ。
背中の羽が痛んでも、命が縮んでもかまわないから。
それから、僕は毎日Aのところに通った。
特に話すこともないし、やることもないんだけど、顔が見たくって。
家に一人だけって、寂しいんだ。
梅雨になって、夏になって。きみがいない、季節が過ぎる。
毎日さんさんと輝いていた太陽も落ち着いて、少しずつ涼しくなってきた。
…僕の翼も、どんどん大きく成長してきた。
Aのこと考えすぎて、もうもたないよ。
ねえ、早く起きてよ。
今日もそんなことを考えるけど、Aの様子は昨日と変わらない。
「そらるさんがテレビに出たんだよ!」なんて話しかけても、
返事はない。
しばらく一緒にいて、静まり返った家に帰っていく。
…でも、今日は違ったんだ。
「じゃあ、また明日ね」って耳元でささやいて、椅子から立ち上がる。
そのとき。
「…A…?」
ほんの少しだけど、Aが確かに目を開けた。
「え、A!?僕のこと、わかる、見える!?」
ゆっくり、ゆっくり時間をかけて大きな瞳がこっちを向く。
病室を飛び出して、看護師さんを呼び止める。
「Aがっ…!目を開けましたっ!先生呼んでください!」
久しぶりに出した、大きな声。
僕の言葉を聞いて、看護師さんが走っていく。
ねえ、やっと起きたね。
遅いよー。ほら、早く遊ぼう?
言いたい言葉がたくさんあって、伝えたい気持ちがたくさんあって。
ぼうっと天井を見つめてるAをぎゅっと抱きしめる。
「Aっ…!」
「ねえ…。あなた、誰?」
「え?冗談でしょ、A。僕だよ、真冬だよ?」
「まふゆ…なんて、知らない。早く離して。」
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あゆ(プロフ) - どのお話も切なくて、思わず1話読み終わる事に泣いてました…w最高でした!ありがとうございます…(´;ω;`) (2019年7月25日 21時) (レス) id: e76134e0bd (このIDを非表示/違反報告)
夏々 - まふくん……悲しすぎる(;_;) (2018年11月22日 23時) (レス) id: ca7b93074f (このIDを非表示/違反報告)
かのこゆり - かのこゆりです!天使病のお話を書かせていただきました。お褒めの言葉、ありがとうございます!緊張していたのもあり、正直あまり自信がなかったのですが、そういっていただけて嬉しいです。読んでくださり、本当にありがとうございました! (2018年11月22日 4時) (レス) id: 459f75f8c6 (このIDを非表示/違反報告)
sera(プロフ) - ぬこさん» 坂田さんの小説の作者、seraです。私の書いたものが良かった、と書いてくださったのでコメント返しさせて頂きます。そう言ってくださりありがとうございます。これからも私含め、他の作者様のこと、応援よろしくお願い致します! (2018年11月21日 21時) (レス) id: 28f01b04a4 (このIDを非表示/違反報告)
ぬこ - 凄く感動しました。特に、坂田さんの入院(?)のやつと、まふまふさんの天使病のやつです。めっちゃ泣きました!これからも頑張ってください! (2018年11月21日 21時) (レス) id: 4fbcbbbe7e (このIDを非表示/違反報告)
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