あの日の恋が嘘みたい。【歌い手】

【まふまふ】天使になる僕と、僕だけを忘れた君/かのこゆり ページ36

「おはよう！」

から一日が始まって。

「おやすみ。」

で一日が終わる。


これからもこうやって

いつまでも君と一緒に

生きていけるんだと、思ってた。



「じゃあ…行ってきます！戸締りと火には気を付けてよ！」

Aは、両手にたくさん荷物を持ってそういった。

「大丈夫だよ！A、お母さんみたい(笑)いってらっしゃい！」

ゴールデンウイークだし、友達と1週間旅行に行くというAを見送る。

「いってきます！」

そういって、いつもの輝く太陽みたいな笑顔を見せるきみ。

胸がきゅうっとなる。

ああ、やっぱりその笑顔大好き。

恋人になって同じ家で暮らすようになった今でも、毎回どきどきしてる。

片思いのときから変わらないなあ、僕。


…でも、最近変わってしまったことがあって。

ガチャっと音がして、ドアが閉まると、僕はひざから崩れ落ちた。

「いた、い…。」

洋服の上から、背中についている小さな羽を押さえる。

そう、あれは三週間前くらい前のこと。


仕事に行くAを見送って、デートのときにとった写真を見返していた。

「かわいいなぁ…。」

つぶやきながら、一日前の夢の時間を思い出す。


そのとき。

「いっ！たあ…。」


背中に激痛が走った。

思わず手にしていたスマホを落とす。

ぱりん、と哀しい音を立てて割れる画面を気にする余裕がないくらい、とてつもなく痛い。

ナイフで深く切り付けられたみたいなひりひりする痛み。

雷に打たれたみたいな衝撃。

思わず、大嫌いな病院に駆け込む。


「あぁ…。これは…。」

先生が、背中を見た瞬間に、ため息交じりの声をこぼす。

「これは、天使病ですね。」

一瞬、聞き間違えかと思う。

天使病？そんなメルヘンな名前なのに。

「…て、天使病ってどんなものなんでしょうか…？」

やっとの思いで声を絞り出す。

「背中に生えた翼が成長する病気です。

　翼は、生命力を吸い取って成長します。

　残念ながら、今のところ治療法はありません。」

この小さな羽が？僕の命を吸い取って？成長する？

信じられない。

でも、もっと信じられないのは、「治療法がない」ということ。


その後の説明は、放心状態でほとんど頭に入らなかった。

よく、小説でこんな場面があるけど、本当に起こるなんて思わなかった。

詳しい説明は覚えていないけど、

信じられない、あまりに残酷な言葉は今でも頭から離れない。



「本当に残念ですが、余命はあと半年もないと思われます。」

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