Torenia Fournieri -2-

5 ページ5

.


物心ついた時からずっと一緒だった。




親同士が仲良くて、家も近所で。




Aちゃん、ニカちゃんって、いつもそう呼び合っていたのを覚えてる。




なんでAは俺のことを "高嗣くん" じゃなくて "ニカちゃん"って呼ぶんだろう。




そんな疑問を母親にぶつけてみた。




"あんたが自分で言ったのよ？俺、ニカちゃんって言うんだよ〜って…"




親や親戚以外は皆、俺のことを苗字を捩(もじ)ったあだ名で呼ぶ。




いつしか、Aに対しての感情が 幼馴染としてでも家族としてでもなく、恋心に変わっていることに気付いてしまった。




それと同時に、Aと初めて会った時、何故下の名前で自己紹介しなかったんだ･･･という小さな後悔も生まれた。




.




.




クラスメイトに揶揄われても、なんの反応も示さずにただ笑ってたら、次第に揶揄う奴はいなくなっていった。




俺とAは、家族同然の仲。




もはや双子なんじゃないか？




前世は行き別れの姉弟･･･




そんな風にいじられることはあっても、俺もAもそのノリに乗ったりして。




とにかく、小学校時代は楽しかった。




何も気にせずにAといられたから。




.




.




だけど中学校に入ると、違う学区の生徒も一緒になり、クラス数も増える。




Aとクラスが離れてしまい、休み時間にAの教室に遊びに行った。




『A！』




「あ…」




Aの名前を呼ぶと、教室にいた生徒の視線が一斉に俺へと向いた。




『……友達出来た？』




「あ、うん、出来た…けど、」




辿々しい口調。




『Aがいないと寂しいんだけど。たまには遊びに来てよ、俺も来るからさ？』




「……ニカ…二階堂くん、そろそろ教室戻んないとチャイム鳴っちゃうよ？」




『…え？』




ニカちゃん、じゃなくて、二階堂くんって呼ばれたその瞬間。




Aの表情は、俺を拒絶していた。




.




"ごめんニカちゃん、学校では幼馴染だってこと内緒にしたいの…"




"揶揄われると面倒だし……それに、私もニカちゃんも 友達作らないと…ね？"




申し訳なさそうにそう言ったA。




"分かった！その代わり 学校以外では変わらず幼馴染でいよ？ね、約束！"




俺は、笑顔でそう答えた。




姿を見かけても、廊下ですれ違っても、チラッと目を合わせるだけの日々。




心にポッカリと空いた穴は、時間が経ってもずっとそのままだった。

6→←4

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す