18話 ページ25
snr side
その言葉を聞いた瞬間、「あぁ、かわいいな」なんて思ってしまって。
下を俯く彼女の頭を撫でる。
やっぱり俺は好きなんだ。紗奈が。
そして自分が止められなくなって…。
「上向いて?」
「…? んっ…!」
唇に唇が触れ、紗奈は放心していたが、すぐに我にかえり俺の胸板を押す。
俺も少しやばい…と内心焦ったが、その思考は全て飛んでいく。
紗奈の後頭部に手を添え、逃げられないようにして。
…どうせ、数日後には別れまた敵対する運命__なら。
壊してしまえ。紗奈からの信頼も、捨ててしまえ。
*・゜゚・*:.。..。.:*・・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*
唇同士が離れ、紗奈は恥ずかしさで体が脱力していた。
急にきた甘いキスに準備ができていなかった体と頭がついていかず、ぼーっとしてしまっている。
今はセンラが紗奈を支えている状態。
センラの目はまるで愛しいものを見るような…でも、悲しそうな目をしているようにも見えた。
その瞳ががっちりと紗奈の瞳を捉えていて、紗奈は目を逸らせられなかった。
「好き。好きやで。紗奈。一生離したくない。」
彼の口から放たれた「好き」という言葉。
それに驚いた紗奈に追い打ちをかけるように衝撃の光景が目の前に映った。
「せ、んら…?なんで、泣いてるの…?」
涙を流すセンラがそこにはいた。
「紗奈…、やからっ…!
俺は危険な目に合わせたくない…。捕まえたくもない…。やから、怪盗…やめてほしいんよ…!」
そう言ってセンラはぼろぼろと涙をこぼす。
そして紗奈の中では納得してしまっていた。
センラが挙動不審な行動していたのも、吸血鬼だからという理由ではない。
好きになってしまった。けれど此処から出れば敵同士。叶わぬ恋だとわかっていたから。
ここから出たくないと言ったのも、本当は敵同士に戻るのが嫌だったから。
そう考えれば全て辻褄が合う。
「センラ…。」
紗奈はセンラの背中に手を伸ばし、ぎゅっと抱きつく。
「ごめんね。センラを悩ませていたのは私のせいだったんだ。でもね、私はセンラに答えることはできないよ」
『嘘だ』
紗奈の心の何かが言った。
「ごめん。ほんとにごめんね。」
『本当は自分だって…、心のどこかでは気づいているんでしょ?彼が好きだって。アノ計画を実行したくないことも。私はすべてお見通しよ。』
心の声がクスクスと笑う。
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作者名:朧月 天音 | 作成日時:2020年12月8日 21時