7話 ページ13
紗奈の震えが止まり、気づけばセンラの腕を握っていた。自分で驚きはしたものの、この状態から腕を離す気にはなれなかった。
そこで紗奈はいたずら心が芽生えて、眠ったふりをして、センラに体重を預けた。
「紗奈…?」
自分が眠っているのが分かったのかもしれない。と思い、まだ狸寝入りを続ける。
センラの腕が抜け、手の行き場を失う。
そのまま、センラに支えられつつベッドに寝かせられる。すると、髪をいじられている感覚がした。
何をする気なんだろう?と思っていると呟くような独り言が聞こえた。
「紗奈…結構、近くで見たら可愛いんやな。
…おやすみ。」
…⁉
か、かわいい?
混乱している頭に追い打ちをかけるように、額に柔らかいものが触れた。
待って…この感触は…、小さい頃両親が私にしてくれた感触と似てる…。
まさか…
き、キスした⁉
わかった瞬間飛び起きそうになったが、ここで起きると気まずい雰囲気になりかねないので我慢して狸寝入りを続ける。
大きく自分の拍動の音が聞こえる。
「(きっと今の私の顔は真っ赤なんだろうな…。)」
「なんでこんなに…苦しいんやろ…。」
「…!」
センラの声はか細かった。
さっきまでの堂々とした態度はどこにもなくなっていて、可哀想にも思えた。
そんなことより、「苦しい」の意味が紗奈は気になった。
「紗奈…苦しいんよ…。」
この言葉を聞いたことにより、「苦しい」と言う訳は私にあるんだと紗奈は感じた。
紗奈とセンラの共通点はほとんどない。
学校は同じだったけど。
ちやほやされているセンラを見て、紗奈は「話しかけよう」「私も気に入られよう」とは思わなかった。
敵に気に入られようなど思わない。
紗奈は遠くから見ていたが、センラが偽りの笑顔を貼り付けているようで、「大変だなぁ」としか思ってはいなかった。
それに気づいていない囲んでいる奴らも、最低な奴なんだと思った。
気に入られたい人の異変にも気づかない奴が気に入られるはずがない。
あと、紗奈とセンラの共通点は1つ残っている。
今、親がいないと言うこと。
センラの親はある事件に巻き込まれて殺されたと聞いたことがある。
それでも、そこまで関係があるわけじゃない。
紗奈は一生懸命、センラが苦しむようなことをしてしまったのか考えたが、思い付かない。
学校でも話しかけたことがないしここにきても、紗奈はセンラにされるがままだったのだから。
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作者名:朧月 天音 | 作成日時:2020年12月8日 21時