17 ページ17
『今は仕事だ。自分に任せられた事を全うしろ。何があったかはしらんけど仕事にプライベートは関係ないだろ?』
「はい。ごめんなさい。」
気持ちが混乱する私にそう言い放った凌さんは、緊張感に満ち溢れていた。
本番前だからかな...??
こんな凌さん、見た事ない。
少し怖かった。
調弦を終わらせて、アンプの調整等も終わり、凌さんに確認すると、元の凌さんに戻った笑顔で、『ありがとな。』と言った。
修司達の演奏が終わり、袖にはけてくる。
一瞬目があったが、すぐに逸らした。
今は修司の事はいい。
もうすぐステージに出る凌さんを見たい。
「頑張って来てください。ちゃんと聴いてます。」
『あぁ。聴いとけな。』
初めてしっかりと凌さんの歌を聴く時が来た。
とてつもない盛り上がり。
鳴り止まない歓声と、彼らの奏でる音は私の耳にダイレクトに入り込んでくる。
リハの時はなんだか凄いな〜くらいだったのが、さすがはプロ。
身体が震えた。鳥肌が立った。
熱く眩しいスポットライトが当たる度、彼らは煌めいていた。
響き渡る凌さんの歌声に胸が痺れた。
どこか懐かしいその声は、私が求めていた音楽と少し違うが、あまりにそっくりだった。
私でもわかる。
コレが軸に乗った音楽。
彼らが進むべくして出来た道を突き進んでいるような。
終盤に差し掛かると、ここで1曲、カバー曲が入った。
Overture "輪廻"
私のよく知っているメロディ。
音だけが流れて時間が止まったように感じる。
頬に熱い感触が流れる。
コレは凌さんが選んだのだろうか。
だとしたらどうして...。
『先日、俺がギターを始めるきっかけだった、Overtureのテツヤさんの3度目の命日を迎えたと言うことで、この曲を演奏させていただきました。』
「...お父さん」
歌っている時、無意識に凌さんに父親を重ねた。
私の父親である事は凌さんには伝えていないから知らないだろうし、憧れだったなんて初めて聞いた。
胸が熱くなった。
また父親の歌を聴けたような気がして嬉しかった。
でも、それと同じだけ切なく、苦しかった。
31人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:なちゅ | 作成日時:2020年4月9日 14時