【文スト】太宰治の恋事情

24 ページ25

Aside


首領に宜しく頼み込まれ、私は安吾の足跡を追うことになった。

しかし目下、私には何のヒントもない。

マフィアの情報員を追うのは、逃げ出した飼い猫を捜索するのとは訳が違う。
(実際に猫捜しをした事があるから間違いない)。

猫が姿を消したら、近所の餌場を張り込めばいい。

だが安吾の餌場など推測のしようがない。


仕方なく私は、ある仮説を立てた。


安吾消失の原因は二通りの可能性がある。

自ら望んで姿を消したか、誰かに連れ去られたか。

もし前者であれば、私にはどうしようもない。

安吾は親に反抗したがるティーンエイジャーではないのだ。

その気になれば足跡のつかない金を数百万用意できるし、それだけあれば地球の裏の遊牧民族のキャンプ地まで逃げることもできる。

よってこの仮説は排除だ。


もうひとつは、安吾が何者かによって強制的に移動させられている可能性。

首領が推測する通り、敵対組織が安吾の頭の中の情報を狙った、というのが最も"ありそうな"顛末に思える。


そうなれば、安吾が密かに何か手懸かりを残していることを期待したくなる。

グリム童話の秘密のパン屑。


それで私は手始めに、安吾の自宅を訪ねる事にした。


思えば安吾の私生活など、私はほとんど知らない。

私達の距離感は常にそういうものだった。

太宰も安吾も、自分の身の上話などしたことがない。


*

25→←23

ラッキーアイテム

包帯

ラッキーキャラ

織田作之助

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す