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6、彼ノ名ハ、太宰治 ページ6

××



「真逆、邪魔されるとはね……あぁ……悲しい……」


僕は男性を川から引き上げたことを後悔していた。曰く、目の前の男性は「死ぬつもりで川に飛び込んだ」らしいのだ。要するに入水。どうやらこの人は世にも奇妙な `死にたがり´ というものなのだ。

よりにもよって、そんな面倒極まりなさそうな人種を、僕は引き上げてしまった。これではただの飛び込み損だ。

隣にいたAちゃんは珍獣を見るかの如き眼差しで彼を見つめていた。入水男性もまた、Aちゃんを見つめていた。二人の間に流れる不思議な空気に耐えられなくなっていると、向こう岸から怒鳴り声が聞こえてきた。


「こんな処に居ったか!唐変木!」

「おー、国木田くん。ご苦労様ー!」


国木田くん、と呼ばれた男性は青筋を浮かべながら入水男性に文句を云っている。入水男性は無視をし、───というか耳にすら入っていないのかもしれない───彼は同僚なのだよ、と笑みを浮かべる。


「そういえば君たちの名前は?」

「中島敦、ですけど」

「君は?」

「……七竈Aと申します」


Aちゃんの名を聞くと彼は矢っ張りか、とまるで最初から知っていたかのように笑った。その笑みがなんとなく不気味に感じて、僕は彼の視界からAちゃんを隠すように前に立った。


「はは。大丈夫だよ、取って食おうなんて思ってないから。そういえば、君達はこれから何処かへ行くの?」

「……はぁ……あの、茶漬けを食べに食事処へ行こうかと……」

「よし、私も行こう!」

「えっ」


彼は飄々と笑うと「国木田くんに三十杯くらい奢らせよう」と一言。その申し出に僕は少しの間考えた。彼等が奢ってくれると云うのならそれはそれで有りかもしれない。しかも三十杯なんて!


「俺の金で勝手に太っ腹になるな!太宰!」

「……太宰?太宰って……」

「ああ、私の名だよ」


彼の蓬髪が風に揺れ、鳶色の瞳が輝いた。



 「太宰、太宰治だ」




**

7、かわいい子には旅をさせよ→←5、茶漬けが食べたい



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黒灰白有無%(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです!!賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます!! (9月8日 3時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←? - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます!!七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:あんず | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2019年6月14日 21時

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