18、時は短し、走れよ少女 ページ18
××
「着替え終わったんだけど……どうかな」
目を開けると正装に着替えた中島先輩が照れくさそうに頬を掻いた。黒のサスペンダーにズボン、見慣れないブラウスに身を包んだ先輩は何時もよりも大人っぽくて私よりも歳上に見える。実際、先輩の方が歳上なのだが。素敵ですよ中島先輩。思った感想をそのまま口にすると彼の顔は火山のように真っ赤になった。
「じゃ、じゃあ、行こうか」
「はい」
二人で玄関に向かうとこれまた見慣れない靴が用意されていた。ローファーは片隅に置かれ、エナメルの鮮やかな赤のハイヒールが私を履いて!と云わんばかりに主張していた。ヒールはあまり慣れないが、今の服装にはこちらの方が合っているだろうと足を入れてみる。恐ろしいことにサイズはピッタリだった。
「靴まで用意してくれるなんて……無償でここまでしてくれるってすごいね!」
中島先輩もまた用意された靴を嬉々として履いていた。しかし、疑問に思わないのだろうか。無償で部屋を貸し、服を揃えてくれる善人なんてそういない。優しくされればされるほど、その分働かされるのだと私は震えていた。
***
「君達、遅すぎるよ……さては、今まで良からぬことをしていたのだね!?」
階段を降りた先には、土管に挟まった太宰先輩がいた。中島先輩は真顔でその様子を観察している。私もきっと中島先輩と同じ顔を太宰さんに向けているだろう。
「まぁ、とりあえず助けて」
「……えっと……なんですか、これは……」
「何だと思うかね?」
「朝の幻覚」
「違う」
曰く、太宰先輩は土管を使った自 殺法があると聞き、早速試してみたそうだ。先日の入水の件といいどうやら彼は死にたいらしい。敦先輩は渋々、といった様子で土管から太宰先輩を助け起こす。私は太宰先輩に触れられないので見守っているだけだ。
「さあ、じゃあ行こうか」
「え、何処にです?」
「君達に仕事を斡旋しようと思ってね」
ついに来たか。ゴクリと息を呑む。
中島先輩は本当ですか!?と瞳を輝かせる。
……逃げるなら、今しかない。
「私、仕事は自分で見つけますから!」
私は走った。中島先輩を置いて。
履き慣れないヒールで走るのは矢張り辛いがもうこれに関しては我慢しかない。心の中で中島先輩に謝罪する。
ごめんなさい、でもきっと助けに行きます、中島先輩!
**
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黒灰白有無%(プロフ) - 試しにと思い読んでみたら迚も面白かったです!!賭ケ/グ/ル/イは少々爆笑 Aが割と多く出て来るのは珍しいですね。凄く良い話だったので其の儘続編も楽しませて頂きます!! (9月8日 3時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
そよそよ - A''''わずか一話で死んだのにいいキャラだった (2023年4月14日 18時) (レス) id: 28bb2962c4 (このIDを非表示/違反報告)
モモンガ←? - すっごくこの作品大好きで何回も読んでます!!七竈ちゃん可愛くて大好きです!!!!!! (2022年8月25日 13時) (レス) id: e4f6a8b567 (このIDを非表示/違反報告)
ミカン - Aはいいキャラしてるんだよなぁ (2022年1月4日 8時) (レス) @page50 id: 168fc3a64e (このIDを非表示/違反報告)
neko - 太宰さん…。 (2020年5月11日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
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