閑話 一晩の記憶 ページ47
*
悪夢を見た。
僕がAさんの頸を斬る夢。
───いや、現実だった。
正確にはAさんでは無いが、姿声形全てがAさんだった鬼の頸を斬った。
「無一郎くん」
無「ッ!!」
これで何度目だ。
あと少し刀を振るえば頸を斬れるのに、Aさんの優しい声で名前を呼ばれる度に力を緩めてしまう。
クソ、あれは鬼だ。わかってる。
頭では理解してるのに体が勝手に強ばる。
「ねぇ、無一郎くん
私を殺すの?」
無「……」
「無一郎くん…」
無「やめろ!!」
ガタガタと刀を持つ腕が震える。
それを見た鬼は好機と言わんばかりにニヤリと怪しく笑い、畳み掛けるように僕に話しかけてきた。
「無一郎くん、ねぇ、無一郎くん?」
無「……」
「私の為に死んでほしいの」
無「!!」
鬼にとっては僕を揺さぶる為の一言だったかもしれない。
けど僕にとっては目を覚まさせる一言だった。
「…無一郎くん?」
無「もうそれ以上その声で話さないでくれる?」
───霞の呼吸 伍ノ型 霞雲の海
「え?」
頸が地に落ちた。
それは徐々に化けの皮が剥がれてゆく。
無「Aさんは自分の為に他人を犠牲になんてしない」
刀を鞘に収めると一気に力が抜けた。
僕死ぬのかな。毒で身体が動かないし。
そんな時、僕がまだ鬼殺隊にも入っていない頃にAさんと何気なく話した会話が走馬灯のように浮かんだ。
貴「私は私が犠牲になって他人が救われるなら何だってするし、何だって差し出すよ」
無「Aさんより弱い隊士の為でも?」
貴「そうだねぇ
弱い人を助ける為に柱がいるわけだし
それにそんなの見過ごせないよ」
無「……Aさんはもっと自分を大切にした方がいいと思う」
貴「ふふ、ありがとう」
聞いてふと思った。
自分の存在を粗略に扱っているAさんにとっての生きがいや楽しみ、幸せってなんなんだろう、と。
無「Aさんの幸せってなに?」
貴「うーん…幸せ、かぁ……
無一郎くんが結婚して家庭を築いて、平穏におじいちゃんになるまで長生きすることかな」
無「何で僕?Aさんは?」
貴「無一郎くんの幸せが私の幸せだからね
……だけどそれも叶いそうにないなぁ」
困ったように笑うAさん。
そうだ、そんな彼女を見て僕は生きてAさんの幸せであり続けるんだって思ったんだ。
*
2211人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「鬼滅の刃」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鬼滅大好きもち - 中学一年の私自身むいくんが最推しなのでこの小説を読んでると心がホワホワします。むいくんと恋仲が私的に思ってないので師範面から過ごす話の小説を探していてやっとお気に入りの小説に出会うことができました!とてもいい作品を作っていただきありがとうございます! (2019年12月27日 10時) (レス) id: 08fa144c19 (このIDを非表示/違反報告)
カオリ(プロフ) - 鬼滅隊じゃなくて鬼殺隊ではないでしょうか?間違いだったらごめんなさい。 (2019年11月17日 18時) (レス) id: f2976f8dda (このIDを非表示/違反報告)
時紀(プロフ) - 岬さん» ひぇ…恐縮です……私も岬さんから温かいコメントをいただけてキュンキュンが止まりません…ありがとうございます…… (2019年9月2日 15時) (レス) id: efc0380dc7 (このIDを非表示/違反報告)
岬 - わぁ……閑話めっちゃ……もう……囁かに甘くてキュンとしてしまいます……むいくんが柱になってからは、夢主さんに甘える機会が少なくなったように見えますし、こんなふうに甘えてるのを見るとキュンキュンが止まりません……ほんとに時紀さんの小説で、生きてます…… (2019年9月1日 21時) (レス) id: 7d9b2a2f36 (このIDを非表示/違反報告)
時紀(プロフ) - 李詩さん» 無一郎くん喋りましたねぇ、動きましたねぇ、かぁいかったですねぇ。作者もとっても幸せです。一緒にキュンキュンしましょう……! (2019年9月1日 0時) (レス) id: efc0380dc7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あたた | 作成日時:2019年7月23日 23時