【Ｈ×H】長月のセレナーデ 2小節目【幻影旅団】 (ページ3)

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黒い風は再び彼女の前に現れるページ3

｢…なんてことを…｣
｢なんでここにいるのか知らねえが…。興味半分でこんな処へ来た自分の馬鹿さ加減を呪うんだな、世間知らずのお姫サマ｣
気付けば、きつく手足を拘束される。なにこれ…、手錠？
｢おい、傷をつけんなよ！質が落ちる｣
立たせられると、私を引き連れて男たちは歩き出す。気付けば、そばのトラックの荷台に、男の子が入った布袋が放りあげられた。

私も…、あんな風に…。

｢クロロ…助けて…｣

｢安心しろ。金持ちの誰かがお前さんをうんと可愛がってくれるさ。あのガキのように五臓六腑全てをバラされることはねえよ。…まあ、お前を欲しがる薄汚ねえ富豪共がお前をどう扱おうが自由だがな…｣
ガハハ、と目の前で男は笑った。小汚い唾が飛んできて、私はにわかに顔をしかめる。
｢助けを呼んだって、誰も来やしなさいさ。ここは無法地帯、流星街だぜ…？｣

流星街…？

どこかで、聞いた単語だ。

『流星街。オレの故郷』

ここは、まさか、クロロの…。

｢世界の果てへ、ようこそ。ここが、最果ての地、この世の全てを捨てる街、流星街だ｣

なんてことだ。なぜ、そんなところに…。

クロロは昔、言ったのだ。

多分世界で一番でかいスラム街だ、と。

｢そんな…｣

｢ほら、立って歩け！！｣
｢いや、離して！｣
｢口答えすんじゃねえ！舐めた女だ｣
ッガ、と顎を掴まれ、私の顔を男は覗き込む。
｢これだから…女はバカだから嫌いなんだ｣

その時だった。

黒い風が、サッと通り過ぎたのは。

トラックの前で数人の男たちが倒れている。今、何が起きた？

誰かが…。

｢な、何の騒ぎだ｣
男が、私から手を離した瞬間だった。
｢うっ｣
ド、と鈍い音がして、男は倒れたのだ。その無精髭の生えた口から、泡を吹いて。
｢…っひ｣
私はにわかに顔を歪ませるが、視線が下に落ち、男のそばで立つ、ひとりの男の子と目が合った。

…誰…？

いや、…あなたは…。

まさか…。

濡れたような漆黒の髪がさらりと光った。服装はボロボロなのに、肌は陶器のように白く、泥汚れひとつついていない。ガラス細工のような透き通った瞳は、私を捉えて離さなかった。

｢…ねえ、アンタのそれ、オレに寄越せ｣
｢へぁ…？｣
開口一番にそう言って、クロロは私を指さす。
｢そ、それって…？｣
｢オレはこいつらみたいな品のないやり方は好きじゃない。助けた礼に、身ぐるみ全部置いていけ。あと、装飾品も全部｣
｢…は？｣

それが、再び出会った、小さな彼との最初の日だった。