お隣、36日目 ページ36
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「おわっった〜〜〜!!!」
そう言ってAは腕を伸ばした。
時計の針は7時半をさしている。窓の外は真っ暗で、流石にAを一人で帰らせるのは気が引けた。
「送ってくからはよ帰る準備せえや」
「いやいいよ!大丈夫大丈夫〜」
やっぱりそういうと思った。
予想通りの返答に、俺は呆れる。人の厚意も素直に受け取れんのかこいつは。でも今は疲れていて、文句を言う気力もなかった。
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「わっ、見て!星が綺麗な日だね〜」
外に出るとやっぱり真っ暗で、街頭以外に頼りになる明かりはなかった。だけどそのせいか、夜空に点々とする星は一層輝きを放っている。
Aはそれを見て目を輝かせた。星の光がAの目の中でキラキラと光るのを見て、俺は「なあ」と口を開いた。
「ん?なに?」
「やっぱ送ってく」
「え、ええ〜いいのに」
「黙って送られとき」
少し申し訳なさそうに眉を下げるA。
そんな顔がしてほしいわけじゃない。
Aの歩幅に合わせていつもよりゆっくりと歩いていると、例の公園が見えた。隣をチラリと見ると、Aもその公園に目を向けている。
(……………)
「公園、寄っていこーや」
「!…いいよ〜!寄ってこ!」
俺の提案に、嬉しそうに口元を綻ばせる。それを見て俺まで頬が緩んだ。Aを見ていると、何故かいつも力が抜けてしまう。
公園の中は、あの日とまったく変わっていなかった。
例のドーム型遊具も、少しだけ錆びついた鉄棒も、小さい子用なのか低めに作られたブランコも、あの日のまんまだ。
Aはブランコに座り、楽しそうに笑っている。
隣のブランコを指さし、俺を呼んだ。ブランコで遊ぶような年ちゃうやろ、と言ってやりたかったが、楽しそうにしているAにそんなことを言うのは気が引けて、やめておいた。
「へへ、楽しいなあ〜懐かしいなあ」
「……懐かしい?」
「あ、え〜、とね、昔来たことあって!」
少したじろいたA。
どういうことや?昔来たことがあるっていうのは、俺と会ったあの日のことを言うとるんか。それとも別のことか?
……もしかしてこいつも、
覚えてるんじゃないのか?
一度そんなことを考えだしたらキリがなくて、俺の頭の中をいろんな仮説がぐるぐると回る。だけど納得できる答え何て得られるわけがなくて、俺は気づいたら口を開いていた。
「お前、あの日のこと、覚えとるか?」
Aの目が、大きく見開かれた。
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冬田(プロフ) - 結衣さん» こちらこそ温かいコメントありがとうございます(^-^)本当に嬉しい限りです!そちらの曲も聞いてみたいと思います! (2020年5月27日 13時) (レス) id: 4ea05f3e1b (このIDを非表示/違反報告)
結衣 - 本当に素敵なお話しをありがとうございます!!OneRepublicのCounting Starsという曲のようで感動しました!聞いてみてほしいです! (2020年5月26日 12時) (レス) id: f0b62f3d9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬田 | 作成日時:2020年5月15日 20時