お隣、25日目 ページ25
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「……Aは、ちゃんとしとるよな」
「ちゃ、ちゃんとしてる…?私が?」
そんなこと、生まれてこの方一度も言われたことがない。
水野Aと言って連想されるものは『ポンコツ』『阿呆』『バカ』『ちゃらんぽらん』『変わり者』などだと思う。自覚がある。
それなのに、私を見る北さんの目は、とても優しくて、嘘を言っているようには思えなかった。
「俺は、ちゃんとやるやつが好きや」
北さんは続けてそう言う。
私はバカだから、北さんの言いたいことが分からない。表面上しか汲み取れない。その真意を、知りたくても知ることができない。
だけど、なんとなく、北さんが次に言うことは分かる。
「だから、Aのことが好きや」
……優しく頭を撫でてくれるのも、
勉強で困っていたら助けてくれたのも、
返信してないのに執拗にメッセージを送ってきたのも、
……今、滅多に見せない笑顔を私に向けているのも、
きっと北さんが、私を大事に思っていてくれてるからだ。
私はそんなに鈍感じゃなかった。自分でも吃驚するくらい頭が悪いけど、それでも人の気持ちばかり気にして生きてきたから、すぐに分かった。
気づいたら頬が濡れていた。北さんがそれを、優しく拭った。
私は、ちゃんとしてなんてない。北さんが好きな「ちゃんとした人間」とは程遠い。きっと北さんはそれを知らないんだ。私のことを知らないんだ。
「……ちゃんとしとるよ」
「っして、ない…です、!」
「しとるよ」
Aは、ちゃんとやっとる。
北さんの声が優しいせいで、私の涙は止まらなくなる。優しくしないでって言いたかった。私はまだまだ、良い子じゃないから。
「Aはええ子や。俺は知っとる」
「……いい子じゃないです」
何度も否定するのに、北さんは私の言葉なんて聞こえてないみたいに喋り出す。
「…ボタン、あんなに頑張って見つけたのに、偶然見つけたゆうて友達に渡しとったな」
「えっ、なんで知って…」
「知っとるよ、Aのことなら何でも知っとる」
そんなわけ、ない。
現に北さんは、私の昔の名字も、なんでこんなに良い子ぶって頑張ってるのかも、全部知らないじゃないか。ひょっとこのお面を今でも部屋に飾ってるのだって、私が好きなテレビアニメだって、
「好きや、A」
……そんなの、ずるい。
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冬田(プロフ) - 結衣さん» こちらこそ温かいコメントありがとうございます(^-^)本当に嬉しい限りです!そちらの曲も聞いてみたいと思います! (2020年5月27日 13時) (レス) id: 4ea05f3e1b (このIDを非表示/違反報告)
結衣 - 本当に素敵なお話しをありがとうございます!!OneRepublicのCounting Starsという曲のようで感動しました!聞いてみてほしいです! (2020年5月26日 12時) (レス) id: f0b62f3d9b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:冬田 | 作成日時:2020年5月15日 20時